宣伝失礼しました。本編に移ります。
本稿では、メルカリ社が公表した「従業員に対するSNS上のハラスメント行為を繰り返していた人物が書類送検された」という事案を起点に、法的背景、他社事例、実務オペレーション、そしてこれからの広報・人事・法務の連携像までを一気通貫で解説いたします。誰もが日常的に利用するSNSが、もはや「自由な悪口」が無制限に許容される場ではないという現実が、企業発表と捜査機関の動きによって可視化されました。ビジネスの現場で実際に役立つ視点に徹し、判断材料となる論点を整理してまいります。
メルカリ社の公表が告げたもの:発端から「書類送検」確認までの骨子
┌────────────────────────────────┐ │ ① 従業員への執拗なSNS投稿(能力・人格を貶める表現の反復) │ │ ② 社内での被害申告・証拠収集・法務/人事/広報の初動連携 │ │ ③ 告訴状受理 → 捜査進展 → 書類送検の事実を会社が確認 │ │ ④ 企業としての対外公表:「従業員等を守るため毅然と対応」 │ └────────────────────────────────┘
メルカリ社は、特定の人物がソーシャルメディア上で従業員に対し、侮辱的・攻撃的な表現を執拗に反復したことにより、従業員に精神的負担が発生していた点を明確化しています。ここで重要なのは、企業が「従業員の安全と尊厳」を政策レベルで位置づけ、被害の継続性と深刻度を公的手続きによって確認し、結果として書類送検がなされた事実を、企業自らの言葉で公表に踏み切ったという構図です。
公表文言の中核は「毅然とした対応」の宣言です。これは単なる感情表明ではなく、発信者情報開示請求、刑事・民事の二正面での手続活用、ならびに投資家向けコミュニケーションの原則(適時・適切な開示、フェア・ディスクロージャー順守)との整合を含む、組織的な方針の開示と読み解けます。
事件性の解像度を上げるうえで大切なのは、企業が「社内規程の一部としてのハラスメント方針」に閉じず、「社外の個人によるSNS上の執拗な攻撃」に対しても、告訴・書類送検という刑事ルートを明瞭に使い得ることを実例で示した点です。これは、従来の“泣き寝入り”や“無視による風化待ち”に代わる実効的スタンスとして、市場全体の行動規範を押し上げるシグナルになります。
法的論点の要:侮辱罪は「事実の摘示を要しない」ゆえにSNSで成立しやすい
┌──────────────────────────────────────┐ │ 侮辱罪:事実の摘示不要/公然と人を侮辱(抽象的な悪罵でも成立) │ │ 名誉毀損罪:事実の摘示が必要(真実か否かにかかわらず名誉を毀損) │ ├──────────────────────────────────────┤ │ SNS適合性:公開性・拡散性ゆえ、成立要件を満たしやすい │ └──────────────────────────────────────┘
侮辱罪は、刑法上「事実の摘示を要しない」犯罪類型であり、抽象的な悪罵であっても、公然性(不特定多数が認識し得る状態)が満たされれば成立し得ます。SNSは設計上、他者の視認可能性が高く、かつ反復の蓄積が容易で、スクリーンショット等で証拠化が進むことから、成立要件との親和性が高いことが実務上のポイントです。
さらに2022年の改正で法定刑が引き上げられ、拘留・科料のみの軽微な扱いから、懲役・禁錮(現在は拘禁刑)や罰金刑(上限30万円)までを含む幅広い科刑選択が可能になりました。結果として、告訴受理→捜査→送検→略式命令や罰金刑というルートが、SNS由来の案件でも現実味を持つようになっています。
企業側から見れば、社内規程・就業規則の範囲に閉じるのではなく、刑事・民事のハイブリッドで行為抑止を実装できることを意味します。これにより、被害の長期化・重症化・退職誘発・採用難化などの経営コストを、初動で抑え込む可能性が高まります。
数字が語る厳罰化の3年:罰金水準の分布、処理状況の実像
┌───────────────┬───────────────┬───────────────┐ │ 罰金10〜20万円層が最多 │ 科料は少数 │ 公判請求はごく一部 │ ├───────────────┼───────────────┼───────────────┤ │ 不起訴・略式の比率高め │ SNS由来が全体の多数 │ 慎重な証拠化が決定打 │ └───────────────┴───────────────┴───────────────┘
法務当局が直近公表したデータや事例集の読み解きでは、インターネット事案における侮辱罪の科刑は、罰金が中心で、その中でも10万〜20万円帯が最多という傾向が示されています。SNSの公開性と記録性は証拠固めに有利に働きやすく、略式命令請求・罰金での終結が比較的多いというのが、いまの実務の輪郭です。
同時に、不起訴や家庭裁判所送致など案件の出口は多岐にわたります。重要なのは、成立・処分の可否が「被害の状況」「継続性」「投稿の文言」「執拗性」「可視性(フォロワー規模や引用拡散)」といった具体的事情の組み合わせで決まる点です。企業は、主観的な憤りではなく、客観事実の時系列化と保存に全力を注ぐほど有利になります。
従来は「どうせ泣き寝入り」と見られがちだった分野が、厳罰化3年で明らかに変質し、企業・個人の双方が「言葉の責任」を強く意識せざるを得ないステージへ移行しています。メルカリ社の公表は、その地殻変動を一般にも見える形で“定着”させた象徴といえます。
インフルエンサーと株主アクティビズム:意見と言論が、いつハラスメントへ転ぶのか
┌───────────────┐ │ [建設的提言] │ │ ┌────────┼─────┐ │ │ [厳しい批判] │[人格攻撃/侮辱]│ │ └────────┴─────┘ │ 内容・根拠・態度・反復性・公開性で判定 └───────────────┘
SNS時代の投資家・インフルエンサーは、企業活動に対する批判や改善提言を公に展開します。建設的な論点は市場に資する一方、人を対象にした抽象的な悪罵の反復、意図的な挑発、人格や属性への攻撃に転じた瞬間、言論は侮辱・ハラスメントへと質を変えます。重要なのは、内容の公共性や根拠の提示有無、表現の節度、対象の特定性、反復・執拗性の総合評価です。
企業広報は、この境界の見立てを誤ると、過剰反応と受け取られたり、逆に無策だとみなされたりします。社内で「批判の受容」と「人格攻撃への対峙」を切り分け、批判は傾聴・対話、人格攻撃は記録・告訴という二段運用を明示するルール作りが欠かせません。
メルカリ社の公表は、投資家コミュニケーションの原則に触れつつ、SNSでのやり取りに企業が直接応じるのではなく、適時適切な開示の枠組みの中で取り扱うという姿勢を明確にしました。フェア・ディスクロージャーの原理と従業員保護の原理を高次で両立させる意思表示と読み解けます。
他社の可視化:シプード社が示した「迅速な刑事ルート」と公表の一体運用
〔監視〕→〔記録保全〕→〔社内初動(法務/広報/人事)〕→〔警察相談・告訴〕 →〔捜査連携〕→〔送検確認〕→〔必要範囲での公表〕→〔継続的抑止・再発防止〕
SNS上で役員に対する悪質な誹謗中傷が継続し、刑事告訴ののち書類送検に至ったケースを、シプード社は自社の言葉で公にしました。被害の深刻さが業務に支障を来していた点、そして刑事・民事の両面で毅然と対応する方針を明確化した点は、同社のステークホルダーに対しても抑止的効果を持ちます。
このような可視化は、被害者側の安全確保という直接目的に加え、「企業は無限に耐えるわけではない」という閾値の社会的共有にもつながります。結果として、無自覚な野次馬的参加や二次加害を抑え、被害縮小の速度を高める副次効果が期待できます。
重要なのは、単発のリリースで終わらせず、被害の再燃と模倣を防ぐ継続運用です。公式サイトでの進捗告知、メディア対応方針の統一、必要な場合の再度の法的手続の告知など、継続的なシグナリングが欠かせません。
行政現場にも波及:同僚中傷のSNS投稿で職員が書類送検された教訓
┌───────────職場(役所/企業)───────────┐ │ 被害者(同僚) 加害職員/外部者 上司 人事 組合 市民/顧客 │ │ │ │ │ │ │ │ └──精神的負担/職場秩序低下/行政サービス影響の連鎖──┘ └────────────────────────────────┘
SNSで同僚を侮辱する投稿を行った公務員が書類送検されたケースも報じられています。内部の人間関係がSNSに流出し、職場秩序・市民サービスに連鎖的な影響を及ぼすリスクは、民間のみならず行政機関にとっても現実問題です。組織の外部に開かれた空間での発信は、内容如何で職務適格性やコンプライアンス評価にも直結します。
行政組織は、懲戒基準や倫理規程の周知に加え、SNS行動指針の策定、職員相談窓口の機能強化、外部有識者による調査委員会の運用など、平時からの備えが要となります。被害の顕在化後に制度設計を始めるのでは遅く、予防の段階での教育・訓練が決定打になります。
民間企業も、役所の失敗から多くを学べます。内輪の軽口が公に拡散した瞬間に「公然性」を帯びるという事実、軽い一言が組織風土や採用力を毀損するコスト、そして現場上長の初動判断の重要性は、組織類型を超えて共通の教訓です。
企業の実務:広報・人事・法務の三位一体で「証拠」と「言語化」を揃える
〔広報〕──社会説明と再発抑止の宣言 ▲ │ │ ▼ 〔人事〕──被害者支援/就業環境配慮──〔法務〕証拠化/手続運用
まず、証拠化の徹底が成否を分けます。投稿URL、画面キャプチャ、日時、投稿前後のコンテクスト、拡散状況、反復性、被害者の体調変化や業務影響、相談記録など、刑事・民事のいずれでも通用する時系列ログが生命線です。これは被害申告のハードルを下げる社内フォームや、一次窓口のスキル標準化と不可分です。
次に、言語化です。広報は「何が起き、何に照らして、どの措置に至ったか」を、感情ではなく事実で組み立てます。投資家コミュニケーションの原則、従業員の安全配慮義務、プラットフォーム規約に基づく是正窓口、そして法的手段の位置づけを、相互矛盾なく置きにいく高度な文章設計が必要です。
最後に、被害者支援の運用です。メンタルケア、異動・在宅等の勤務配慮、匿名化設定の支援、アカウント運用ガイドの提供など、被害後ケアの選択肢をあらかじめカタログ化しておくことで、当事者が「選べる」環境を整備できます。これが二次被害の芽を摘み、離職や士気低下を防ぎます。
三部門は、個別案件対応の前に「常設の合意書(プレイブック)」を持つべきです。そこに、社外由来の中傷、社内由来の中傷、匿名の脅迫、実名の罵倒などケース別の基本線と、窓口、ログ化テンプレート、発表規準、そして警察・弁護士連携のトリガー条件を明記します。
実務フローの雛形:初動から公表までの運用テンプレート
受理→記録→隔離/保全→初動会議→被害者支援→法的評価→窓口選択 →削除要請/凍結要請→告訴→進捗モニタ→送検確認→公表判断→継続抑止
運用のコアは「最短で証拠を凍結し、最小限の露出で最大の抑止を利かせる」ことです。受理段階で、記録の真正性と完全性を担保し、二次加害を誘発する安易な反論や“晒し返し”を禁圧します。可視化は、捜査や司法の節目に同期させ、社外の関心ではなく法的プロセスに基準を置きます。
公表判断では、①法的節目(送検・略式・判決等)、②被害抑止(模倣防止・内部安心)、③市場コミュニケーション(投資家・取引先)の三点を軸に、開示の粒度とタイミングを決めます。過不足ない事実列挙、将来方針、相談窓口の明記が基本線です。
プラットフォーム側への要請(削除・凍結・発信者情報開示)や、検索結果の是正(検索エンジンポリシー準拠)も、実効性の高いオプションです。社外の専門家(弁護士・デジタルリスク対策)との役割分担を最初から明記し、社内で“人に依存しない”運用を目指します。
文体でリスクは激変する:批判・異論・侮辱のグラデーション設計
[事実に基づく提案]→[厳しいが丁寧な批判]→[嘲笑/揶揄の混入]→[人格攻撃/侮辱]
外部への反論文が「相手の悪罵」に引きずられ、トーンが粗暴化するほど、第三者は双方非難に傾きます。反論の文章は、事実・根拠・規程・判例の順で積み上げ、相手の表現には踏み込まず、行為の違法性と自社が取った措置の適法性だけを簡潔に述べるのが最適解です。
批判への応対は「反論」よりも「参照先の提示」で十分です。IR資料、FAQ、技術文書、過去の説明の再掲で応じ、SNS上での口論には構造的に参加しない姿勢が、むしろ企業の成熟を映します。時間と注意資源は、被害者支援と証拠化へ集中させるべきです。
社内教育では、仮想SNS事例を用いた演習が効果的です。たいしたつもりのない冗談が、文脈の切断や拡散で「侮辱」に格上げされる事態を、目で見て理解させる教材を用意してください。反復・執拗性が成立要件の鍵であることを、数値で示すと腹落ちが早まります。
これから1年の見通し:規範の定着と「二次被害」抑止が勝敗を分ける
┌─────────────┬─────────────┐ │ 模倣(コピーキャット)│ 二次加害(嘲笑/晒し)│ ├─────────────┼─────────────┤ │ プラットフォーム凍結 │ 検索残存/切抜拡散 │ └─────────────┴─────────────┘
類似事案の公表が続けば、抑止も働く一方で、模倣も誘発されます。公表直後こそ、社内外の行動規範を再周知し、二次加害を未然に抑えるメッセージを積極的に出してください。SNSポリシー、相談窓口、違反時の処分基準、刑事・民事の活用方針を、見える場所で再掲するのが効果的です。
プラットフォームとの連携強化も鍵です。凍結や削除要請はもちろん、レピュテーションの回復を早めるために、公式説明が検索上位に自然と現れる導線設計を、広報とIRで協働してください。検索で誤情報が先に来る状態を放置すれば、採用・営業・資本市場の全方位で摩耗が進みます。
企業の覚悟が試されるのは、判決確定の時点ではなく、告訴直後・送検直後の「世論の揺れ」の局面です。そこで冷静な言葉を積み上げられる組織は、ステークホルダーとの信頼残高を増やし、次の危機局面でも迷いません。
結語:言葉の責任を取り戻す時代へ——「毅然」と「丁寧」の両立が信頼をつくる
「事実で語る」「人を攻撃しない」「従業員を守る」「法手続に委ねる」
今回のメルカリ社の公表と、他社の実践は、企業が「言葉の責任」を取り戻す起点になります。批判は受け止める、人格攻撃は許さない。SNSであれ現実空間であれ、共通するのは、事実と規範に立脚した静かな決断です。毅然さと丁寧さを両立させる運用を、平時から準備しておくことが、最大の攻めのリスクマネジメントです。
そして、被害を受けた従業員が安心して働ける環境を守ることは、最終的に顧客と投資家の利益に直結します。企業が示した一歩は、SNS社会全体の健全化に波紋を広げるでしょう。いま求められているのは、沈黙でも過剰反応でもなく、公共に資する適切な言葉と、粛々たる手続です。
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