沈黙の帝国：日本に潜む1500万人の「弱者」と「生涯未経験」の交差点。これは社会問題か、それとも静かなる革命か？

2025年、英国から発信された一つの研究が世界に衝撃を与えました。オスロ大学の研究チームが、英国およびオーストラリアの数十万人という前代未聞の規模で「生涯にわたり性交渉を持たない人々」の特性を分析したのです。その結果は、我々が抱く「恋愛経験がない人」というステレオタイプを根底から覆す、矛盾と複雑さに満ちたものでした。彼らは平均して高学歴でありながら、深い孤独と不幸感を抱えている。リスクを回避する堅実な生活を送る一方で、社会との繋がりを失っている。このニュースは、親密な関係性の不在が個人の選択や性格だけの問題ではない、より根深い生物学的、社会的な要因の産物であることを示唆し、世界中のメディアで報じられました。しかし、この地球上で、その研究結果がまるで遠い国の出来事のように霞んでしまうほど、深刻かつ特異な状況に陥っている国があります。それが、我が国、日本です。英国の研究が示した「生涯未経者率約1%」という数字に対し、日本では30代の約10人に1人が性交渉未経験という驚くべきデータが存在します。これは単なる数字の差ではありません。この国で静かに、しかし確実に進行している巨大な地殻変動の兆候なのです。本稿では、英国の研究を手がかりとしながら、日本の「生涯未経験」という現象の深層を徹底的に解剖します。そこに見えてくるのは、経済格差に引き裂かれた男性たちの悲鳴、恋愛という価値観そのものから静かに「離脱」していく若者たちの姿、そして「アセクシュアル」「弱者男性」といった新たなアイデンティティの胎動です。これは、少子化という国家的な課題の裏に隠された、もう一つの、そしてより本質的なクライシスなのかもしれません。今、我々の目の前で静かに広がりつつある「沈黙の帝国」の正体に迫ります。

第1章：「生涯未経験」の肖像――英国40万人が暴いた意外なプロファイル

「生涯未経験者」。この言葉から、どのような人物像を思い浮かべるでしょうか。社交的でなく、学業や仕事も振るわない、どこか社会の隅に追いやられた存在――。多くの人が、無意識のうちにそのようなレッテルを貼ってきたかもしれません。しかし、米国科学アカデミー紀要（PNAS）に掲載された画期的な研究は、その固定観念を木っ端微塵に打ち砕きました。英国約40万人、オーストラリア約1万3500人という膨大なデータを解析したこの研究が描き出したのは、成功と孤立、合理性と不幸が同居する、極めて矛盾したプロファイルだったのです。最も衝撃的な発見は、生涯未経験者が平均して「より教育水準が高い」という事実でした。これは、日本のいくつかのメディアが当初「学歴が低い」と誤って報じた内容とは真逆の、研究の根幹をなす知見です。彼らは遺伝的にも高い認知能力や社会経済的地位と正の相関が見られ、学術的な領域で成功するポテンシャルを秘めていることが示唆されました。さらに、彼らのライフスタイルは驚くほど堅実です。アルコールやニコチンの使用頻度が低く、リスクを回避する傾向が強い。これは、自制心があり、健康的な生活を送っているとも解釈できます。しかし、この「成功者」とも言える側面の裏で、彼らの内面世界は深刻な危機に瀕していました。生涯未経験者は、そうでない人々と比較して、統計的に有意に「より孤独で、より不幸」であり、神経質な傾向が強いことが明らかになったのです。親しい友人や家族との交流は少なく、いざという時に頼れる相談相手がいない。この「高学歴で自制的、しかし孤独で不幸」という矛盾した肖像は、我々に何を物語るのでしょうか。研究チームは、その答えのヒントが遺伝子の中にある可能性を示唆しています。生涯未経験という特性は、自閉症スペクトラム障害（ASD）と正の遺伝的相関を、そして外向性とは負の遺伝的相関を示したのです。これは、彼らが持つ認知スタイルが、体系的で論理的な思考が求められる学問の世界には極めて適している一方で、暗黙のルールや感情の機微が複雑に絡み合う人間関係、特に親密なパートナーシップの構築には困難を伴う可能性を示しています。彼らは社会の「敗者」なのではなく、現代社会が求める能力の一部に極めて特化し、その代償として別の何かを失っている「特化型の生存者」なのかもしれません。この英国の研究は、生涯未経験という現象を、単なる社会的スキルの欠如から、より本質的な神経認知の多様性という次元へと引き上げた、まさにパラダイムシフトと呼ぶにふさわしいものでした。

第2章：日本の例外――なぜこの国では「未経験」が爆発的に増加するのか

英国の研究が示した生涯未経験者のプロファイルは、それ自体が驚きに満ちたものでした。しかし、そのデータを日本の現状に照らし合わせた時、我々はさらに大きな衝撃を受けることになります。英国のサンプルにおける生涯未経験者の割合が約1%であったのに対し、日本ではその数字が桁違いに跳ね上がるのです。国立社会保障・人口問題研究所（IPSS）の出生動向基本調査や東京大学の研究によれば、日本の30代における異性間性交渉の未経験率は、男女ともに約10%に達するという驚愕の事実が明らかになっています [1, 2]。これは、英国、米国、オーストラリアといった他の高所得国における同年代の未経験率が1～5%程度であることと比較すると、まさに「日本の例外」と呼ぶべき異常事態です [1]。この国では一体何が起きているのでしょうか。その答えの鍵を握るのが、経済という冷徹な現実です。PNAS研究では、生涯未経験者はむしろ「高学歴」であるという、経済的成功とは必ずしも直結しないプロファイルが示されました。しかし、日本の男性においては、状況は全く異なります。東京大学の研究チームが25歳から39歳の日本人男性を分析したところ、性交渉の未経験と、無職、非正規雇用、そして低所得との間に、極めて強力な統計的関連が見出されたのです [1]。具体的には、正規雇用の男性と比較して、非正規雇用の男性が未経験である確率は3.82倍、無職の男性に至っては7.87倍にも達しました。この数字が意味するのは、現代日本において、男性の経済的地位が恋愛市場への「入場券」として機能しているという厳しい現実です。戦後日本を支えてきた「男性稼ぎ主モデル」、すなわち「男は正社員として働き、女は家庭を守る」という社会構造は、経済の長期停滞と非正規雇用の拡大によって崩壊しました [3]。しかし、その文化的価値観だけは亡霊のように社会に残り、男性に対して経済的安定という名の重圧をかけ続けているのです。結果として、安定した雇用と収入を得られない男性は、その人格や魅力を問われる以前に、恋愛というステージに上がることすら許されない「経済的排除」に直面しています。これは、欧米のデータが示唆する「市場には参加できたが、関係構築に失敗する」という構図とは根本的に異なります。日本では、経済的な格差が、恋愛の機会そのものを奪う巨大な壁として立ちはだかっているのです。この「経済的排除」こそが、日本の男性における異常に高い未経験率を説明する、最も重要な要因の一つと言えるでしょう。

第3章：ラベルの解剖学――「アセクシュアル」「インセル」「弱者男性」三つの貌

「生涯未経験」という一つの言葉は、あまりにも多くの異なる現実を覆い隠してしまっています。その巨大なカテゴリーの内側には、全く異なる動機、アイデンティティ、そして苦悩を抱えた人々が存在します。この現象の複雑さを理解するためには、このラベルを丁寧に解剖し、少なくとも三つの異なる「貌」を区別する必要があります。第一の貌は、「アセクシュアル（Asexual）」です [4, 5]。これは、他者に対して性的な魅力を感じない、あるいはほとんど感じない性的指向を指します。重要なのは、これが病理や欠如、あるいは個人の選択（禁欲）とは異なり、生まれ持った多様な性のあり方の一つであるという点です。彼らは恋愛感情を抱くこともあれば（ロマンティック・アセクシュアル）、抱かないこともあり（アロマンティック・アセクシュアル）、その内実は多様です [5, 6]。彼らにとって性交渉の不在は「欠落」ではなく、自らのアイデンティティの自然な帰結なのです。日本におけるアセクシュアルの人口比率調査は、調査方法によって1%未満から10%以上まで大きなばらつきがありますが [7, 8, 9]、性の多様性への理解が深まる中で、自らをアセクシュアルと認識する人々は確実に存在感を増しています。第二の貌は、「インセル（Incel）」、すなわち「非自発的独身者」です。アセクシュアルとは対照的に、彼らは性的な関係を強く望んでいるにもかかわらず、それを実現できない状況に置かれています。その満たされない欲望は、しばしば社会や女性に対する強い怒りや憎悪へと転化し、欧米では過激な思想と結びつき、深刻な社会問題を引き起こすケースも報告されています [10]。彼らの苦悩は、欲望の存在そのものから生じており、その解決は極めて困難です。そして第三の貌が、現代日本において最も議論を呼んでいる「弱者男性」です [3, 11]。この概念は、インセルと重なる部分がありながらも、より広範な社会的・経済的文脈を持っています。弱者男性とは、単に恋愛市場から排除されているだけでなく、不安定な雇用、低所得、社会的孤立といった複合的な困難に直面している男性たちを指す社会的な言葉です [3, 12]。彼らの問題は、個人の魅力の有無という次元を超え、資本主義社会の構造的な歪みそのものを映し出しています。彼らは「男らしさ」という古い価値観を押し付けられながら、その「男らしさ」を発揮するための経済的基盤を社会から与えられないという、深刻なダブルバインドに陥っているのです [11]。このように、「生涯未経験」という現象の背後には、自らの性的指向として静かに生きる人々、満たされない欲望に苦しむ人々、そして社会構造の犠牲となった人々という、全く異なる三つの集団が存在します。この三者を混同して語ることは、問題の本質を見誤らせるだけでなく、それぞれの当事者が抱える固有の困難を無視することに繋がります。真の理解は、この複雑な内実を直視することからしか始まりません。

第4章：恋愛からの大離脱――Z世代が求める「お金・時間・自由」という新世界

日本の高い未経験率を、経済格差による男性の「排除」という側面だけで語るのは、物語の半分しか見ていないことになります。水面下では、もう一つの巨大な潮流が、静かに、しかし力強く社会を動かしています。それは、若者世代、特にZ世代における価値観の劇的な変化、すなわち「恋愛からの大離脱」です。博報堂生活総合研究所が30年ぶりに行った大規模な若者調査は、この地殻変動を鮮明に描き出しました [13, 14, 15]。1994年、彼らの親世代にあたる団塊ジュニア世代にとって、「今一番欲しいもの」ランキングの5位は「恋人」でした。しかし30年の時を経て、2024年の若者たちにとって「恋人」は10位にまで転落。代わりにトップ3に躍り出たのは、「お金」「時間」「自由」だったのです [15]。このランキングの変化は、単なる流行の移り変わりではありません。現代の若者たちが、人生において何を最も価値あるものと見なしているかの、根本的なシフトを示しています。さらに衝撃的なのは、交友関係の中心が「異性」から「同性」へと移行している事実です。「落ち込んだ時に一番そばにいて欲しい相手」として、かつては多数派だった「異性」を選ぶ若者は激減し、今や過半数が「同性」の友人を選ぶと回答しています [14]。これは、情緒的な支えや安らぎを、もはや恋愛関係だけに求めていないことの明確な証左です。なぜ、このような「恋愛離れ」が加速しているのでしょうか。その背景には、恋愛の「コストパフォーマンス」に対する若者たちの冷静な眼差しがあります。不安定な経済、複雑化する人間関係、SNSによる常時接続のプレッシャー。こうした現代社会において、恋愛は多大な時間、感情、そして金銭的コストを要求される、極めて高リスクで骨の折れる活動として認識され始めています。一方で、世の中には推し活、趣味、自己投資、友人との時間など、より少ないリスクで確実な満足感や幸福感を得られる代替的な選択肢が溢れています。このような状況下で、若者たちが恋愛という不確実な投資を避け、より手堅い幸福を追求するのは、ある意味で極めて合理的な判断と言えるのかもしれません。この「恋愛からの大離脱」は、前述した経済的要因による「排除」とは異なる、もう一つの巨大な力学です。経済的に不利な立場にある男性たちが非自発的に市場から「排除」される一方で、性別や経済状況に関わらず、より広い層の若者たちが自らの価値観に基づき、恋愛市場から自発的に「離脱」している。日本の異常に高い未経験率は、この「排除された層」と「離脱した層」という、二つの異なる集団が合流した結果として現れているのです。これは、もはや単なる「非モテ」問題ではありません。社会の価値観そのものが、根底から変容し始めていることの、最も力強い証拠と言えるでしょう。

第5章：沈黙のクライシス――幸福度最下位、自殺率2倍。見過ごされる男性たちの悲鳴

「弱者男性」。この言葉がインターネットの言論空間で頻繁に交わされるようになって久しいですが、その言葉の背後にある統計的現実は、我々の想像を絶するほどに過酷です。これは単なるネットスラングや一部の不満の声ではなく、この国の男性、特に未婚男性が直面している「沈黙のクライシス」を指し示す、警報に他なりません。衝撃的なデータをいくつか見てみましょう。まず、幸福度。評論家のトイアンナ氏の著書『弱者男性1500万人時代』などで指摘されているように、日本の未婚男性の幸福度は、先進25カ国の中で驚くべきことに最下位です [16, 17]。対照的に、日本の未婚女性の幸福度は同調査で最も高いという結果が出ており、男女間で幸福度に巨大な断絶が生じていることがわかります。このデータは、女性が「結婚しない」ことを主体的に選択しているケースが多いのに対し、男性は「結婚したくてもできない」という非自発的な状況に置かれている現実を浮き彫りにしています [16]。次に、生命の危機に直結するデータです。厚生労働省と警察庁の統計によれば、日本の男性の自殺者数は女性の約2倍に達します [18, 17]。さらに、社会から孤立した末に誰にも看取られずに亡くなる「孤独死」も、その約83%を男性が占めているという報告もあります [17]。未婚男性の死亡年齢中央値が約66歳であるのに対し、配偶者のいる男性は約81歳と、実に15年もの差があるというデータも、彼らが置かれた状況の深刻さを物語っています [16]。なぜ、これほどまでに男性、特に未婚男性が追い詰められているのでしょうか。その根底には、社会に深く根ざした「男らしさの呪縛」と「自己責任論」があります [16, 11]。男性は強くあるべきで、弱音を吐くべきではない。経済的に成功し、家庭を支えるべきだ。こうした旧態依然とした価値観が、社会の隅々、そして当事者自身の内面にまで浸透しています。そのため、彼らが困難に直面しても、助けを求めることができず、社会的な支援の網からもこぼれ落ちてしまうのです。弱者男性に関する調査では、実にその75%が「自分が悪い」と自らを責めているという結果も出ています [17, 19]。彼らは社会から見過ごされ、声を上げることすらできずに、静かに、そして確実に心と体を蝕まれています。これはもはや個人の問題ではありません。社会が生み出した構造的な病理であり、その悲鳴に耳を傾けることができなければ、この国の未来に深刻な影を落とすことになるでしょう。

第6章：統合モデル――生物学的素因、社会経済的圧力、文化的物語が織りなす三重奏

生涯未経験という、一見すると個人的な問題に見えるこの現象は、なぜこれほどまでに複雑で、国によって異なる様相を呈するのでしょうか。その答えは、単一の要因に求めることはできません。むしろ、これは個人の「素因」、社会の「圧力」、そして文化の「物語」という三つの層が複雑に絡み合い、織りなす壮大な三重奏として理解する必要があります。第一の層は、「生物学的素因」です。英国のPNAS研究が明らかにしたように、私たちは生まれながらにして、特定の行動や性格に対する遺伝的な傾向性を持っています。内向性、神経質さ、あるいは体系的な思考を得意とする認知スタイルといった特性は、生涯未経験という結果に直接結びつくわけではありませんが、その可能性を高める土壌、いわば基礎的な脆弱性を形成します。これは、個人の人生の脚本における、最初の数行を書き記すものです。第二の層は、「社会経済的圧力」です。この脚本がどのような舞台で演じられるかを決定するのが、この層です。特に現代日本のような、不安定な労働市場と拡大する所得格差に特徴づけられる社会は、極めて過酷な舞台装置と言えます。男性の経済力が恋愛市場での価値と直結する文化の中では、非正規雇用や低所得という現実は、個人の素因を増幅させ、恋愛という舞台そのものから強制的に退場させる強力な力として作用します [1, 3]。生物学的な素因という種子が、この社会経済的圧力という土壌と水を得て、初めて具体的な「未経験」という芽を出すのです。そして第三の層が、「文化的物語」です。これは、舞台上の役者が自らの役柄をどのように解釈し、演じるかに影響を与える脚本のト書きや演出にあたります。「恋愛離れ」に象徴されるように、恋愛の価値が相対化され、「お金・時間・自由」といった別の幸福を肯定する物語が社会に広まれば、人々は自ら舞台を降りることを選択するかもしれません [14, 15]。逆に、「弱者男性」言説のように、自らを社会から排除された敗者と位置づける物語が支配的になれば、それは深い孤立感や疎外感を生み、時に社会への怒りという形で表現されることになります [11, 20]。この三層モデルを用いることで、生涯未経験という現象の全体像が初めて見えてきます。それは、特定の生物学的素因を持った個人が、厳しい社会経済的圧力に晒され、その経験をその時代に流通する文化的な物語を通じて意味づけた結果として生じる、動的で多層的なプロセスなのです。この統合的視点なくして、この静かなる帝国の真の姿を理解することはできないでしょう。

結論：親密性の未来――我々はどこへ向かうのか。これは終焉か、進化の序章か

本稿で解き明かしてきた「生涯未経験」という現象の拡大、そしてその背景にある「弱者男性」の苦悩と若者の「恋愛離れ」は、単なる社会風俗の変化として片付けられる問題ではありません。これは、公衆衛生、人口動態、そして社会の根幹をなす「親密性」そのものの未来を左右する、重大な岐路を示しています。公衆衛生の観点から見れば、この問題はすでに危機的状況です。孤独が心身の健康に深刻な悪影響を及ぼすことは科学的に証明されており、未婚男性の幸福度の低さや自殺率の高さは、その最も悲劇的な現れです [18, 16, 21]。社会的な繋がりを失った人々が増え続けることは、医療費や社会保障コストの増大という形で、いずれ社会全体の負担となって跳ね返ってくるでしょう。人口動態への影響は、もはや言うまでもありません。少子化対策が国家的な最重要課題とされる中で、そもそもパートナーシップが形成されない人口層がこれほどまでに拡大しているという現実は、あらゆる政策の効果を根底から揺るがしかねません [1]。では、我々はこの静かなる危機にどう向き合えばよいのでしょうか。画一的な解決策は存在しません。経済的排除に苦しむ人々には、非正規雇用の待遇改善やセーフティネットの強化といった経済政策が必要です。一方で、新たな価値観のもとで恋愛から離脱していく人々に対しては、画一的な結婚や恋愛を押し付けるのではなく、彼らが求める多様な生き方を許容する社会の成熟が求められます。重要なのは、恋愛や結婚という伝統的な二人関係だけが、人間の幸福や繋がりの唯一の形ではないと認識することです。友情、コミュニティ、趣味の集まり、あるいは性愛を前提としない「友情結婚」のような新しいパートナーシップ [22]。これからの社会政策は、こうした多様な「親密性」の形を育み、誰もが孤立しないための社会的なインフラを構築することにこそ、注力すべきなのかもしれません。生涯未経験者の増加は、旧来の家族観や恋愛至上主義の「終焉」を告げているのかもしれません。しかし、それは同時に、人間がより多様で、より自由な繋がりの形を模索し始める「進化の序章」である可能性も秘めています。我々は今、親密性の未来を自らデザインすることを迫られているのです。この問いから目を背けた先に、この国の未来はありません。

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