宣伝失礼しました。本編に移ります。
家電量販の象徴であるヨドバシカメラに対し、公正取引委員会が下請代金減額の禁止違反で勧告を発表しました。対象は店舗で販売する商品の製造委託や、修理・設定などの委託で用いられた協賛金やリベート等の名目による減額で、総額は一三四九万二九三〇円、六社分に上ります。しかも、勧告当日に先立って同社は返金と是正を完了。家電量販の名だたる各社でも同種の勧告が相次ぎ、食品やECにまで波及するなか、下請法は来年から「中小受託取引適正化法」に改称され、用語も運用もアップデートされます。名目が「協賛金」「拡売費」「実売助成費」「値引」など何であれ、発注後の一方的な減額は違反です。ニュースは単発では終わりません。いま起きているのは、長年の“当たり前”を塗り替えるゲームチェンジです。
全体像 一連の勧告は何を示しているのか
タイムライン 2023年06月 ノジマに勧告(減額) 2024年03月 コストコ日本法人に勧告(減額+返品) 2024年05月 コープさっぽろに勧告(減額) 2024年03月 ECのGio(GRL)に勧告(減額+支払保留) 2025年02月 ビックカメラに勧告(減額) 2025年09月 ヨドバシカメラに勧告(減額) ↓ 2026年01月 下請法は取適法へ(用語と実務が刷新)
家電量販各社、食品流通、ECと業態をまたぐ勧告が短期間に連続している点が要諦です。共通項は「発注後に、相手方に責任のない費用を名目を付けて差し引く」行為。協賛金、拡売費、実売助成費、値引、事務手数料、クーポンサポート、オープニングサポートなど名前は違っても、実質は発注額からの減額です。さらに公取委は啓発資料を同時展開し、家電量販のPB製造委託や修理・設定の委託も取適法(改称後の名称)の対象であり、たとえ下請側が合意していても違反となり得ると明示しました。つまり、慣行の延長線上に“安全地帯”はありません。経営、調達、法務、現場が同時に動くべきフェーズに入っています。
ヨドバシカメラ 勧告の核心 名目を変えても「減額」は減額
勧告の骨子(要約) 対象期間:2024年1月~2025年3月 違反類型:下請代金の減額禁止 減額総額:13,492,930円(6社) 是正状況:2025年8月22日までに全額支払済 再発防止:協賛金等の受領廃止、社内研修継続
同社の対象は自社店舗で販売する家電等のPB製造、並びに修理・設定などの役務委託。リベートや協賛金等の名目で、一定率や一定額を差し引いて支払うスキームが問題視されました。重要なのは「相手方に責めがないのに」「発注後に」差し引いた点です。会社側は減額分の全額支払い、協賛金の受領廃止、下請法研修の継続を公表。コンプライアンス体制の強化はもちろん、社内の見積基準や取引設計、承認フローそのものの見直しが求められます。PB拡販上の販促原資をどこに置くのか、期中での予算不足を値引や歩引で補填しない運用に転換できるかが勝負です。
ビックカメラ 名目の羅列が可視化した「歩引きの実態」
減額名目と金額(例) 拡売費 ────────────────── 2.24億円 実売助成費────────────────── 2.12億円 販売支援金────────────── 0.93億円 原価リベート────────────── 0.21億円 回収促進リベート────────── 0.017億円 在庫対策費──────────────── 0.012億円 一括仕入リベート────────── 0.011億円 展示品関連リベート──────── 0.0017億円 合計 ────────────────── 5.57億円
拡売費や実売助成費など、多数の名目で発注額から差し引いていたことが明確化しました。これらは実務上「リベート文化」の延長に見えますが、下請法の観点では名目に意味はありません。紐付けが曖昧な販促費や在庫対策費を後付けで差し引くほど、違反性は強まります。広範な返金を先行させた点は評価できますが、調達ガバナンスの再設計、販促原資の期初確保、PB戦略とサプライヤー関係の再定義が問われます。現場でありがちな「慣習だから」「他社もやっている」は、もはや通用しません。
ノジマ 名目を変えても本質は同じ 遡及是正が示したメッセージ
問題視された主な名目 拡売費/物流協力金/セールリベート キャッシュリベート/オープンセール助成/発注手数料 → 2019年~2022年の取引に遡って返金・是正
同社の事案では、拡売費から物流協力金、各種リベート、発注手数料に至るまで、名目を変えながらも発注後の差引という構図は一貫していました。過去期間への大規模な遡及是正は、慣行の見直しと内部統制の強化に踏み込む表れです。名目を増やすほど管理は複雑化し、社内で「どこまでが適法な単価設計で、どこからが違法な減額か」を見分けづらくなります。価格交渉と原価低減の正攻法をルール化し、契約書面上の単価定義、発注時の拘束力、変更時の承認プロセスを明文化することが不可欠です。
食品流通 コストコとコープさっぽろに見る販促費・返品の壁
代表的なNGパターン A:値引クーポン原資の下請転嫁(クーポンサポート) B:新店オープン販促費の下請転嫁(オープニングサポート) C:検査せずに瑕疵を理由とした返品 D:月次リベート・システム利用料の差引 → 減額や返品の合算返還で原状回復
食品分野では、値引クーポンや新店オープン時の試食・値引など販促費の原資を、発注後に相手へ転嫁する行為が典型的な違反となります。さらに、受領後に品質検査すら行わず返品する行為はダブルでアウト。生協でも月次リベートやシステム利用料等の差引が指摘され、返金を含む是正に踏み切りました。クリアな原資管理と品管プロセスの厳守は小売の信用そのものです。販促は期初で自社が担い、共同販促が必要なら契約時に設計する。返品は検査プロセスを前提とし、受領後の一方的な返品は禁止。この二点を徹底するだけで多くの火種は消せます。
EC・アパレルの盲点 GRLに学ぶ「早期支払ディスカウント」と支払保留
EC特有のNG ・早期支払と引換えの「値引(1.5%)」で実質減額 ・納品受領後、消費者販売まで支払を保留(支払期日超過) ・保留品の支払い時にさらに値引 → 名目にかかわらず「減額」「遅延」に該当
EC事業ではキャッシュ変動が大きく、早期決済による割引や売上確定時支払いなどのスキームが検討されがちです。しかし、取引の本質は変わりません。納品受領後の支払保留や、早期支払を条件にした一律値引は、名目や合意の有無にかかわらず違反に該当し得ます。オンライン事業者は、入金サイトやキャンセル・返品処理と仕入決済の関係を契約に明記し、発注後の減額や期日超過が生まれないプロセスを設計すべきです。財務の工夫と法令遵守は両立します。支払の早期化や動的割引が必要なら、価格改定やボリュームディスカウントを発注前に設計することが鍵です。
ルールが変わる 来年からは「取適法」 用語も実務もアップデート
用語の主な変更(2026年1月施行) 親事業者 → 委託事業者 下請事業者 → 中小受託事業者 下請法 → 中小受託取引適正化法(略称:取適法)
法改正により、下請法は「中小受託取引適正化法」へ。親事業者は「委託事業者」に、下請事業者は「中小受託事業者」へと名称が変わります。名前の変更は単なる看板替えではありません。取引の適正化を主語に据え、PB製造や修理・設定など役務の委託も広く視野に入れる姿勢を鮮明にしています。自社の規程や契約書雛形、社内研修の教材、発注・検収システムの文言まで、用語の更新と同時にプロセスの再点検を実行してください。特に「発注後の一方的な減額は違反」「合意があっても違反」の二原則は、すべての部門マニュアルに太字で刻むべき規範です。
禁止行為を一枚絵で掴む 減額・返品・やり直し強要の境界
禁止行為の見取り図 減額:発注後に名目を付けて差引く(リベート、協賛金、手数料 等) 返品:正当理由なく受領後に引取りを強いる(検査フローを無視 等) 遅延:受領後、期日を超えても支払わない(保留・委託取引名目 等) やり直し:相手に責任がない追加作業を無償で求める(仕様変更 等) 購入強制:相手に関係物品の購入を迫る(おせち、チケット 等)
違反の線引きはシンプルです。単価交渉や見積のやり直しは発注前のステージで完結させること。受領後に名目を付けて差し引くのは減額、検査や合意を経ずに返品するのは返品、期日超過は遅延、無償の追加はやり直し強要、関係のない物品購入の要請は購入強制です。サプライチェーンのどこで意思決定を固定化するかを明確にし、変更が必要なら正式な契約変更に切り替える。これだけでかなりのリスクは防げます。
取締役会が今すぐ指示すべき十項目
緊急チェックリスト 1 期中の販促原資は自社負担で確保(不足時は追加稟議) 2 PB・役務の委託も対象である旨を全社通達 3 発注後の費用転嫁・差引の全面禁止を明文化 4 取引基本契約の「価格調整」条項を全面棚卸し 5 支払サイトと検収プロセスの自動照合をシステム化 6 値引・協賛・手数料等の社内コードを廃止し単価に一本化 7 返品は検査手続と起票必須、例外運用はゼロベースで廃止 8 価格交渉の議事・書証・承認ログを長期保存 9 重大類型は役員決裁(教育・違反時の罰則も明記) 10 主要サプライヤーと共同宣言を策定(再発防止と原資設計)
コンプライアンスは仕組みで担保するのが王道です。部署ごとに増殖してきた名目を潔く廃し、見積と単価に一本化する。発注時に金額と成果を固定し、その後の値引・協賛・手数料の出番を消す。返品は検査と合わせてプロセスに昇華し、曖昧な現場判断を許さない。価格交渉は早いほど良く、期中調整は正式な変更契約に格上げする。定義の明確化、ログの蓄積、役員関与。この三点で、同種の火種は大幅に減ります。
中小受託側の自衛術 証憑と交渉の型で守勢から攻勢へ
交渉の型(例) 前提確認 → 見積固定 → 発注書 → 仕様凍結 → 変更要求は追加見積 → 納品受領 → 期日内支払 証拠:発注書、検収記録、請求書、メール、議事録、チャットログ
中小側は、仕様凍結と追加見積の原則を交渉の土台に据え、書面とログを揃えて境界を固定してください。販促費や事務手数料の転嫁、返品の指示などが発生したら、まずは契約や注文書面への根拠の有無を確認し、根拠がなければ正式な変更契約か原状回復を提案する。記録は宝です。タイムスタンプの付いた議事録、メール、チャット、ワークフローの承認ログを体系的に保存し、いざというとき即時に提示できる状態にしておく。感情的な対立に持ち込まず、プロセスと証拠で粛々と押し返すことが最も効果的です。
市場インパクト 価格、信頼、投資家の視線はどこへ向かうか
市場の波及イメージ 短期:販促原資の社内負担増 → 粗利圧迫 中期:単価設計の透明化 → サプライヤーの品質投資が進む 長期:ブランド信頼の上昇 → 調達コストの構造的低下
短期的には販促原資の自社負担により、粗利の圧迫感が出る可能性があります。しかし、中期的には単価の透明化で交渉が容易になり、サプライヤーの品質投資や納期遵守が進みます。返品ややり直し強要の後処理コストも減ります。長期的には、ブランド信頼の向上と調達の安定化が資本市場で評価され、結果として資金コストも下がる。近視眼的な“歩引きで稼ぐ”モデルから、設計・工程・品質の生産性で勝つモデルへの転換が、市場に歓迎される時代です。
執行強化の現在地 勧告は「最多圏」、指導は「年八千件超」
執行状況(概要) 勧告件数:年間21件(類型内訳は利益提供要請・減額など) 指導件数:年間8,000件超 立入検査:703者、違反行為確認1,321件、改善指導584者 返還・原状回復:総額数十億円規模の年も
近年の公取委は、勧告件数の上振れに加え、啓発資料や重点業種向けの注意喚起を重ね、早期是正を促す運用に軸足を置いています。中小企業庁の立入検査とオンライン調査は年々厚みを増し、改善指導は年数千件規模に達しています。勧告に至る前に返還が済むケースも多く、名指しの公表というレピュテーションリスクが強力な抑止力として機能しています。法改正により用語と趣旨が明確化される来年以降、複合的な違反を束ねて是正するアプローチが主流となるでしょう。
社内と社外に同時に効くコミュニケーション文面の雛形
対外発表の基本骨子(例) 1 事実の認識(違反類型、期間、金額) 2 原状回復(返還・支払完了の事実) 3 再発防止(名目の廃止、研修、体制) 4 ステークホルダーへの謝意と約束 対内通達の骨子(例) 1 発注後の差引全面禁止 2 契約・単価の一本化 3 返品・検査のプロセス厳守 4 例外運用の廃止と稟議化
広報文は簡潔に、しかし具体的に。対外には事実、返還、再発防止、約束の四点で構成し、対内には禁止とプロセス、統制と教育を明記します。社内の通達は一回で終わらせず、現場ミーティングや購買会議で反復して浸透させる。ここでの曖昧さや曖昧な例外が、次の火種になります。文面の統一は、現場判断を支える最初のガードレールです。
結論 「名目を変えた減額」の終幕宣言を
キーメッセージ 名目で包んでも、発注後の差引は違反 合意があっても、違反は違反 販促や在庫のコストは期初に自社で持つ 単価は発注前に決め、変更は正式な契約で
今回の勧告は、単なる一社のニュースではありません。家電、食品、ECという異なる業態に同時多発で起きている構造転換です。名目を増やし、期中で埋め合わせ、後で差し引くという慣行は終わりました。求められるのは、期初に原資を決め、単価を設計し、プロセスで律する経営です。名目の廃止、単価の一本化、返品・検査の厳守、ログの保存。これらを今日から動かした企業が、明日の信頼と成長の主役になります。
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