関通×Cake.jpが仕掛ける「スイーツ物流の大改造」──2026年8月稼働の『Cake.jp Sweets BASE』と業界特化WMSで、冷凍スイーツの“当たり前”を書き換える

スイーツ業界の物流が、大きく動き始めました。2025年8月22日、物流とITオートメーション事業を展開する関通は、ケーキ専門通販サイト「Cake.jp」を運営する株式会社Cake.jpとの資本業務提携を発表し、冷凍スイーツ・洋菓子に特化した新たな物流インフラ構築に踏み出しました。提携の柱は二つ。第一に、スイーツ業界特有の在庫・ロット・賞味期限管理を標準装備したWMS（倉庫管理システム）『トーマス for Sweets』の提供。第二に、2026年8月の本格稼働を目指す専用フルフィルメント拠点『Cake.jp Sweets BASE（スイーツベース）』の新設です。ECと卸、店頭納品までを単一基盤で回す“マルチ温度帯×マルチチャネル×高精度在庫”という難題に真正面から取り組む構えであり、業界に横たわる非効率と機会損失を根こそぎ解消する意志が滲みます。発表各社の情報を横断して見るほどに、これは単なる提携ではなく、スイーツ物流の設計思想を更新するプロジェクトであることが明らかです。

提携の骨子──なにが、どこまで変わるのか

今回の提携で掲げられたのは、「業界専用インフラの共創」です。関通はEC物流アウトソーシングの運用と自社開発WMSの両輪で実績を持ち、関東・関西に20拠点、年間1,300万個以上の出荷体制を有します。Cake.jpは1,700以上のスイーツブランドと200万人規模の会員を抱えるプラットフォームで、需要・供給双方の現場課題に精通しています。両者は、冷凍・冷蔵・常温を跨ぐ多温度帯の一元管理、小ロット多品種運用、販路別梱包の複雑性、厳密な賞味期限・ロット管理といった、洋菓子に特有の難題をワンストップに集約し、WMSとフルフィルメント拠点で一体解決する構図を示しました。特筆すべきは、『Cake.jp Sweets BASE』を「加盟有無にかかわらず開放する業界共通インフラ」と位置づけた点です。自社のECを大きく越え、スイーツ産業全体の土台を作ると宣言したに等しく、従来の3PLやプラットフォーム内製物流の枠を超える射程を持ちます。

市場の追い風──冷凍デザート1兆円規模、年率7.7%成長の現実

この大胆な設計の背景にあるのは、市場の明確な伸長です。各種調査が示すとおり、冷凍スイーツの需要は直近数年で加速し、2025年時点で国内冷凍デザート市場は約1兆円規模、今後も年平均7.75%の成長が見込まれるとされます。冷凍技術とレシピの進化により、お取り寄せ・ギフトはもとより、店舗受け取りや催事、法人需要まで需要の裾野が拡張。結果として、製造・在庫・販売・配送の「温度」と「タイミング」を跨いだ同期化が勝負の分かれ目になりました。繁忙期の需給ピーク（クリスマスや母の日など）、記念日指定や誕生日当日配送への期待値、名入れ・メッセージカード・蝋燭同梱の個別要求──こうした“嬉しい面倒くささ”を、赤字にせず喜びのまま届けるには、温度帯を跨いだ在庫一元化と、販路別の最適梱包の自動化が不可欠です。提携が掲げる「業界特化」の意味は、単に冷凍便を扱うことではなく、スイーツ固有の“情緒の要件定義”まで含めてシステム化することにあります。

『トーマス for Sweets』──スイーツの作法を実装したWMS

関通が長年運用してきたクラウドWMS「トーマス」をスイーツ向けに最適化した『トーマス for Sweets』は、現場の痛点をそのまま仕様に落とし込む思想で構築されています。最大の狙いは、ロット・賞味期限・温度帯・SKU多品種の四重管理を“人の勘”から解放することです。具体的には、入荷時点でのロット・期限捕捉、先入先出の自動引当、期限接近アラート、販路別ルール（ギフト資材、のし、メッセージ、ろうそく本数等）に応じたピッキング・梱包指示、冷凍→チルド→常温の温度遷移に伴うピッキング順序や作業タクトの最適化など、細部の一つひとつが「ケーキの当たり前」に合わせて設計されています。受注管理では、EC・卸・店舗のオーダーが混在しても、SKUと温度帯・納期を軸に波動を平準化し、ラストワンマイルのクール便制約に逆算した出荷計画を自動生成する構えです。SaaS提供で初期投資を抑えるとともに、Cake.jpと連携した導入・運用サポートでITリテラシーの壁を下げ、中小規模の洋菓子事業者でも“明日から運用”を現実にします。2025年内に10社以上の導入を掲げており、現場知を積み上げながら機能を磨き込むロードマップが想定されます。

『Cake.jp Sweets BASE』──業界共通の“温度を持つOS”

2026年8月の稼働を目指す『Cake.jp Sweets BASE』は、関通の高機能センター群を活用するスイーツ特化のフルフィルメント拠点です。冷凍・冷蔵・常温の全温度帯保管、EC/卸/店舗の販路別個別梱包、ギフト対応や資材調達・返品対応までを一拠点で完結し、WMSと完全連携して受注〜在庫〜出荷を一元管理します。とりわけ価値が大きいのは、「Cake.jp加盟の有無を問わず利用可能」と明示した開放性です。これは、プラットフォームの利己主義ではなく、産業の土台を底上げする“共通インフラ”を標榜した宣言です。スイーツ事業者は、自社の設備投資や繁閑差のリスクを最小化しながら、繁忙期のキャパ拡張・販路追加・SKU増にもスムーズに対応できるようになります。品質面では、解凍リードタイムや結露対策、箱強度・緩衝材設計、アイシングやチョコプレートの破損リスク管理といった“菓子ならでは”の微差を定義し、標準作業に落とし込むことで均一化を図る設計が期待されます。物流は“温度の学問”です。スイーツは“感情の学問”でもあります。両者を橋渡しする拠点が、ここに生まれます。

パティスリー・D2C・小売の視点で見る経済性の再設計

この新インフラは、プレイヤーごとに異なる価値をもたらします。独立系パティスリーにとっては、冷凍設備や梱包資材、出荷人員の固定費から解放され、繁閑差の大きい“スイーツ特有の季節性”を外部リソースで吸収できます。限定コラボや季節物のテスト販売も、SKU追加の固定費が小さいため挑戦しやすくなります。D2Cブランドにとっては、IPコラボやギフト企画で必須の「見た目品質」を標準化でき、ロット・期限・温度帯を跨ぐ在庫戦略をロスなく回せます。量販小売は、ECと店頭での在庫共通化（マルチエンティティ在庫）やEC→店頭引き渡し（BOPIS）への拡張に道が開けます。さらに、企業ギフトやノベルティ、イベント催事など“波の高い案件”も短納期で吸収可能です。総じて、固定費の変動費化・在庫ロスの極小化・応答速度の最大化が同時達成され、P/Lの勘定科目の書き換えが起こります。数年先に、スイーツにおける「物流の内製」は“差別化”ではなく“機会損失”と見なされる可能性すらあります。

運用のリアル──“壊さない・溶かさない・遅らせない”を標準化する

スイーツ物流におけるトラブルの多くは、見た目品質の毀損と温度管理ミスに起因します。チョコのブルーム、フルーツの崩れ、ナッペの剥離、メッセージプレートの破断──いずれも再配送コストと機会損失、レビュー悪化を招きます。これを標準化で抑え込むには、SKU×温度帯×販路×天候の四次元で「個別の正解」を定義することが重要です。例えば、冷凍ケーキの外箱は、箱強度・内寸・緩衝材の厚みだけでなく、保冷剤の配置と枚数、輸送時間帯（早朝・夜間）によって最適解が異なります。メッセージカードやろうそく、アレルゲン表示、納品書の有無など販路別ルールも混在します。『トーマス for Sweets』は、これらを“マスタと作業指示”に翻訳し、人依存の勘所を消していく作法です。さらに、品質事故の発生時にはロット・期限・ピッキング履歴・作業者・出荷便の全履歴を遡り、真因を数値で特定することで、現場の学習速度が上がります。人の腕に頼るのではなく、人の気づきを仕組みに残す。これが、壊さない・溶かさない・遅らせないを持続させる唯一の道筋です。

KPI設計──現場が勝ち続けるための“数字の約束”

基幹KPIは、在庫精度（ロット・期限単位）と誤出荷率、出荷生産性（行/時）、リードタイム遵守率（SL）です。スイーツ特化で重視すべきは、期限接近在庫の滞留日数と解凍リードタイム逸脱率、ギフト梱包ミス率の三点。季節波動に備え、週次の需要予測精度（MAPE）を運用の入口に据え、波動平準化（Waves/Slotting）の打鍵をWMSに落とすのが定石です。業務委託の真価は、単価より“学習曲線の傾き”にあります。最初の四半期での不良率の減衰速度、繁忙期の臨時ライン立ち上げ時間、マルチ温度帯ピッキングの歩留まり改善率──これらの“傾き”で契約の可逆性を担保し、改善のインセンティブを共有することが、現場を強くします。

リスクとガバナンス──共通インフラの宿題

業界開放型の共通インフラは、裾野の広さゆえに統制も難しくなります。まずは需要急増期のキャパシティ確保。資材・ドライアイス・クール便枠の調達はサプライヤーとの年間枠契約で分散させ、代替策を多層化する必要があります。次に、食品表示・アレルゲン・温度逸脱の監査。WMS側で必須項目の欠落や例外を強制的に止め、人的判断を極力減らすことが重要です。さらに、マルチテナント環境での“作業品質のばらつき”は避けて通れません。現場の標準作業は、センター横断の審査と教育で均一化し、作業動画・手順書・電子指示を一体で運用する“現場ドキュメントOS”を整えるべきです。最後に、プラットフォームの中立性。加盟有無を問わず開放する以上、SLAや価格体系、優先順位の設計は透明である必要があります。ここはルール設計がすべてを決めます。共通インフラの信頼は、透明なルールに宿ります。

マイルストーン──2025年はWMS拡大、2026年8月に基盤稼働

公式発表の時系列で見ると、2025年内に『トーマス for Sweets』の導入を10社以上に拡大し、そこで得た運用知見を『Cake.jp Sweets BASE』へ集約する構想が示されています。2026年8月の本格稼働は、単なる倉庫オープンではなく、“温度・販路・在庫”のOSを現場にインストールする日です。ここでの第一印象が、数年単位の導入速度を左右します。初年度は、①期限接近在庫の廃棄率50%削減、②ギフト梱包ミス率半減、③繁忙期の出荷キャパシティ20〜30%増、④在庫回転日数の短縮──このあたりを旗印にするのが現実的な目標設定です。さらに、センターを軸に原材料・資材の共同調達、PB開発の共同物流、卸・EC横断の需要シグナル共有へと拡張すれば、“物流が売上を作る”段階に入ります。インフラは、使われて“初めて”インフラになります。最初の1年が勝負です。

経営の視点──物流はコストセンターから価値センターへ

スイーツの価値は、味と見た目と、時間に宿ります。だからこそ、物流は単なるコストではなく、顧客価値の一部です。今回の提携は、物流を「価値センター」として再設計する試みです。WMSとフルフィルメント拠点を“スイーツの作法”で束ねることで、クリエイティブや商品企画の自由度は飛躍的に増します。名入れ、限定仕様、コラボ、季節商品、数量限定予約、短期催事──いずれも物流の地力がなければ破綻します。裏を返せば、物流を握ったものが、スイーツの未来を握る。関通×Cake.jpの連合は、まさにその王道を選びました。今後の焦点は、現場での再現性とスケールの両立です。ここさえ外さなければ、スイーツをめぐる“期待値の基準”は、数年で一段押し上がるでしょう。

要点のまとめ

一、2025年8月の資本業務提携発表を起点に、スイーツ特化WMS『トーマス for Sweets』と、2026年8月稼働予定の業界共通フルフィルメント拠点『Cake.jp Sweets BASE』が走り出した。二、冷凍デザート市場は1兆円規模・年率7.75%成長とされ、マルチ温度帯・多品種・期限・販路別梱包という複雑性をWMSで解き、拠点で回す設計が合理的である。三、拠点は加盟可否を問わず開放され、産業全体の土台を底上げする。四、KPIは在庫精度・期限滞留・梱包品質・波動吸収力の“傾き”で測る。五、物流はコストから価値へ。スイーツの“当たり前”が静かに書き換わり始めた。その筆を握るのが、関通とCake.jpである。

参考情報（公表資料・報道）

ネットショップ担当者フォーラム｜関通、Cake.jpへ出資。スイーツ特化フルフィルメント新設（2025/08/26）

Cake.jp 公式インフォメーション｜関通と資本業務提携「スイーツ物流の新インフラ」共創へ

PR TIMES｜関通、Cake.jpと資本業務提携（WMS『トーマス for Sweets』／『Cake.jp Sweets BASE』）

物流ニュース（LOGISTICS TODAY）｜関通、ケーキ通販と提携しスイーツ物流基盤構築

LOGI-BIZ ONLINE｜関通とCake.jpが資本・業務提携、スイーツ物流変革目指す

株探（MINKABU PRESS）｜関通が続伸、Cake.jpと資本・業務提携

みんかぶニュース｜関通が続伸、Cake.jpと資本・業務提携

TDnet 開示PDF｜関通『株式会社Cake.jpへの出資のお知らせ』（2025/08/22）

関通 WMS『クラウドトーマス』 公式サイト

 

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