宣伝失礼しました。本編に移ります。
Google広告を運用する中で、アカウントの成果をもう一段階引き上げたい、あるいは複雑化したキャンペーン管理を効率化したい、とお考えではありませんか。多くの運用者が「ポートフォリオ入札戦略」という言葉を目にしながらも、その真価を理解し、効果的に活用できているケースは決して多くありません。
「単語は見覚えがあるが、具体的に何ができて、自分のアカウントにどう適用すれば良いのかわからない」「自動入札は使っているが、キャンペーンごとに設定しており、全体最適化という視点がなかった」このような課題を抱えている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、Google広告におけるポートフォリオ入札戦略の基本的な概要から、その核心である機械学習の仕組み、具体的なメリット・デメリット、そして成果を最大化するための詳細な設定方法まで、網羅的に解説します。さらに、6種類ある各戦略をどのようなビジネスモデルで活用すべきか、成功に導くための実践的な運用ノウハウや、避けるべき失敗パターンまで深く掘り下げていきます。この記事を最後までお読みいただくことで、貴社のアカウントにポートフォリオ入札戦略を導入し、広告パフォーマンスを飛躍的に向上させるための具体的な道筋が見えるはずです。
またYahoo! 広告の基礎知識を得たい方は、以下の記事「【入門】Yahoo!広告とは?始め方や出稿種類、費用や特徴など全て解説」にて詳しく解説しています。

また、Google広告に関してに関してさらに知見を深めたい!という方は、以下の記事に総括的にまとめてありますので、ぜひ読んでみてください。

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ポートフォリオ入札戦略とは?その本質を理解する
ポートフォリオ入札戦略とは、一言で表すと「複数のキャンペーン、広告グループ、キーワードを一つの集合体(ポートフォリオ)として束ね、共通の目標達成に向けてGoogleのAI(機械学習)が一括で入札単価を最適化する機能」です。これは、Google広告の強みであるスマート自動入札を、より高度かつ広範囲に活用するための仕組みと言えます。
従来のキャンペーンごとに設定する自動入札(スタンダード入札戦略)が、いわば各部署が個別の目標達成を目指す「部分最適」であるのに対し、ポートフォリオ入札戦略は、会社全体としての利益最大化を目指す「全体最適」のアプローチを取ります。これにより、手動では不可能なレベルでの精緻な入札調整が実現します。例えば、あるキャンペーンの成果が伸び悩んでいても、他の好調なキャンペーンがその分を補うように入札が調整され、ポートフォリオ全体として設定した目標(目標CPAや目標ROASなど)の達成を目指します。さらに、自動入札のブラックボックス化を防ぐため、入札価格の上限や下限を設定し、ある程度のコントロールを人の手で加えることも可能です。
個別設定(スタンダード入札戦略)との決定的な違い
ポートフォリオ入札戦略と、キャンペーンごとに個別で自動入札を設定するスタンダード入札戦略との最も大きな違いは、「機械学習のデータソース」と「最適化の範囲」にあります。スタンダード入札戦略では、学習データはそのキャンペーン内で得られたデータに限定されます。そのため、コンバージョン数が少ないキャンペーンでは十分なデータが集まらず、機械学習がうまく機能しない、いわゆる「学習が進まない」状態に陥りがちです。
一方、ポートフォリオ入札戦略では、束ねられた複数のキャンペーンから得られるデータをすべて合算して学習に利用します。これにより、個々ではデータ量が少ないキャンペーンでも、ポートフォリオ全体として十分なデータ量を確保できるため、より賢く、より迅速に機械学習が進行します。この「学習データの共有」こそが、ポートフォリオ入札戦略が持つ最大の強みであり、個別の設定では到達できないレベルの最適化を可能にするのです。配信実績や自動入札のステータスも、ポートフォリオ単位で一元的に把握できるため、アカウント全体のパフォーマンス管理が格段に容易になります。
ポートフォリオ入札戦略を適用できるキャンペーン一覧
この強力なポートフォリオ入札戦略ですが、すべてのキャンペーンタイプで利用できるわけではありません。現在、ポートフォリオ入札戦略を適用できる主要なキャンペーンタイプは以下の通りです。
- 検索キャンペーン
- ディスプレイキャンペーン
- ショッピングキャンペーン
- 動画キャンペーン(一部の戦略のみ)
- アプリキャンペーン(一部の戦略のみ)
特に、獲得を目的とする運用において中心となる「検索キャンペーン」「ショッピングキャンペーン」で利用できる点は非常に重要です。例えば、商品カテゴリごとに複数の検索キャンペーンを運用している場合や、地域ごとにキャンペーンを分けている場合に、それらを一つのポートフォリオにまとめることで、アカウント全体の運用効率と成果を同時に高めることが可能になります。自社のアカウント構成を確認し、同じ目標を持つキャンペーン群が存在する場合は、ポートフォリオ入札戦略の導入を積極的に検討する価値があるでしょう。
ポートフォリオ入札戦略を支える「機械学習の仕組み」
ポートフォリオ入札戦略の驚異的なパフォーマンスは、Googleの高度な機械学習アルゴリズムによって支えられています。では、具体的にどのようにして複数のキャンペーンを横断した最適化が実現されているのでしょうか。その心臓部である「学習データの共有」と「リアルタイムでの入札単価調整」の仕組みを理解することは、この戦略を使いこなす上で不可欠です。
仕組み1:学習データの共有による最適化精度の向上
前述の通り、ポートフォリオ入札戦略の最大の利点は、複数のキャンペーンから集まるデータを「合算」して機械学習の糧とすることにあります。これを具体的に考えてみましょう。例えば、目標CPAを5,000円に設定したA、B、Cという3つのキャンペーンがあるとします。
- キャンペーンA:月間CV数 50件(十分なデータ量)
- キャンペーンB:月間CV数 5件(データ不足)
- キャンペーンC:月間CV数 3件(データ不足)
スタンダード入札戦略の場合、キャンペーンBとCはデータが少なすぎるため、GoogleのAIは「どのようなユーザーがコンバージョンしやすいか」を十分に学習できず、最適化がほとんど進みません。結果として、CPAが高騰したり、表示回数が伸び悩んだりします。
しかし、これら3つのキャンペーンを一つのポートフォリオにまとめると、GoogleのAIは合計58件(50+5+3)のコンバージョンデータを基に学習を行います。キャンペーンAで得られた「コンバージョンしやすいユーザーの傾向」を、キャンペーンBとCの入札判断にも活用するのです。これにより、単体では学習が進まなかったキャンペーンBやCでも、精度の高い入札調整が可能となり、ポートフォリオ全体としてCPA 5,000円という目標達成を目指せるようになります。これは、経験豊富なベテラン運用者の知見を、データが少ない若手運用者の判断に活かすようなもので、組織全体のパフォーマンスを引き上げる効果があります。
仕組み2:オークションごとのリアルタイムな入札単価調整
Google広告の自動入札は、広告が表示される可能性のあるすべての「オークション」のたびに、リアルタイムで入札単価を決定しています。この判断の際に、AIは「シグナル」と呼ばれる膨大なデータ(数億種類以上とも言われます)を瞬時に分析します。
このシグナルには、以下のようなものが含まれます。
- ユーザー属性:年齢、性別、地域、言語など
- デバイス:スマートフォン、PC、タブレットなど
- 時間帯・曜日:ユーザーが検索している時間や曜日
- 検索語句:具体的なキーワードそのもの
- オーディエンスリスト:サイト訪問者、類似ユーザーなど
- ブラウザ、OSの種類
ポートフォリオ入札戦略では、これらの無数のシグナルを、束ねられたキャンペーン群全体のデータと照らし合わせ、「このユーザーは、このタイミングで、このデバイスから検索しているから、コンバージョンする可能性が非常に高い」あるいは「可能性が低い」と判断し、オークションごとに最適な入札単価を算出します。この一連の処理がミリ秒単位で行われているため、人間が手動で調整するのとは比較にならないほどの精度と速度で、機会損失を最小限に抑え、無駄な広告費を削減することが可能になるのです。
ポートフォリオ入札戦略として設定可能な6種類【完全解説】
ポートフォリオ入札戦略では、ビジネスの目的やKPIに応じて6つの異なる自動入札戦略を選択できます。それぞれの戦略が持つ特性、最適な利用シーン、そして設定時の注意点を深く理解することが、成功への鍵となります。ここでは、各戦略を徹底的に掘り下げて解説します。
- 目標広告費用対効果(tROAS)
- 目標コンバージョン単価(tCPA)
- クリック数の最大化
- コンバージョン数の最大化
- コンバージョン値の最大化
- 目標インプレッションシェア
1. 目標広告費用対効果 (tROAS):利益率を重視するECサイトの生命線
「目標広告費用対効果(tROAS)」は、広告費に対してどれだけの売上(コンバージョン値)を得られたかを示す指標であるROAS(Return On Advertising Spend)を最大化することを目指す戦略です。ECサイトのように、扱う商品によって販売価格、つまり1コンバージョンあたりの価値が大きく異なるビジネスに最適です。
仕組み:この戦略では、事前に各コンバージョンに紐づく「価値(売上金額など)」をトラッキング設定しておく必要があります。GoogleのAIは、設定された目標ROAS(例:500%)を達成できるように、コンバージョン値が高くなりそうなユーザーやタイミングを予測し、入札単価を自動で強化します。高価格帯の商品を購入しそうなユーザーには強気の入札を、低価格帯の商品にしか興味がなさそうなユーザーには入札を抑制するといった判断を自動で行います。
最適なケース:
- 複数の価格帯の商品を扱うECサイト
- リード獲得でも、契約金額によってリードの価値が変動するBtoBビジネス(CRM連携が前提)
- 売上を最重要KPIとして広告運用を行っている場合
効果検証の重要指標:
「目標広告費用対効果」の効果を正しく評価するためには、単にROASの達成度を見るだけでは不十分です。以下の指標を総合的に分析する必要があります。
- 広告費用対効果(ROAS):設定した目標値を安定してクリアできているか。
- コンバージョン値(総売上):ROASを達成するために、全体の売上が犠牲になっていないか。
- 費用:予算を適切に消化できているか。ROASが高くても予算が使えていなければ機会損失です。
- CPA(顧客獲得単価):参考値として確認。ROASが高くてもCPAが高騰しすぎている場合は、利益率を圧迫している可能性があります。
- ROI(投資利益率):可能であれば、ROASだけでなく、売上から原価や広告費を差し引いた「利益」ベースでの費用対効果(ROI)も算出しましょう。ROASが100%を超えていても、利益が出ていなければビジネスとしては成り立ちません。
陥りがちな失敗と対策:
最も多い失敗は、現状のROASからかけ離れた、高すぎる目標値を設定してしまうことです。例えば、過去の実績が200%なのに、いきなり目標ROASを800%に設定すると、AIが「達成は不可能」と判断し、広告の表示が極端に減少してしまう可能性があります。まずは過去30日間の実績ROASと同等か、少し高めの数値からスタートし、成果を見ながら段階的に引き上げていくのがセオリーです。
2. 目標コンバージョン単価 (tCPA):リード獲得ビジネスの標準装備
「目標コンバージョン単価(tCPA)」は、1件のコンバージョン(お問い合わせ、資料請求、会員登録など)を獲得するためにかかる費用であるCPA(Cost Per Acquisition)が、あらかじめ設定した目標値に収まるように入札単価を最適化する戦略です。1件あたりのコンバージョン価値が均一なリード獲得型のビジネスで最も広く利用されています。
仕組み:GoogleのAIは、過去のコンバージョンデータを基に、コンバージョンに至る可能性が高いと判断したユーザーに対して入札を強化し、可能性が低いと判断したユーザーには入札を抑制します。これにより、広告費用を無駄にすることなく、効率的にコンバージョンを獲得し、ポートフォリオ全体で平均CPAが目標値に近づくように調整されます。
最適なケース:
- お問い合わせや資料請求を目的とするBtoBビジネス
- 無料会員登録やメルマガ登録を促すサービス
- 1件あたりの利益がほぼ固定されているサービスの申し込み
効果検証の重要指標:
「目標コンバージョン単価」を評価する際は、CPAだけでなく、獲得件数や予算消化とのバランスを見ることが極めて重要です。
- コンバージョン単価(CPA):設定した目標CPAを達成できているか。日々の変動はあれど、平均して目標値に収束しているかがポイントです。
- コンバージョン数(CV数):CPAを達成するために、獲得件数が極端に減少していないか。目標CPAが低すぎると、獲得機会を逃している可能性があります。
- 予算消化率:設定した日予算を適切に使い切れているか。予算が余っている場合、目標CPAが高すぎるか、あるいはより多くのコンバージョンを獲得できるポテンシャルがあることを示唆しています。
陥りがちな失敗と対策:
tROASと同様に、現状のCPA実績を無視した非現実的な目標設定は禁物です。直近の平均CPAが5,000円なのに、目標CPAを1,000円に設定するような極端な変更は、配信ボリュームの激減を招きます。まずは実績値に近いところから始め、パフォーマンスが安定してから徐々に目標値を調整していきましょう。また、目標CPAを達成したいからといって日予算を絞りすぎると、AIがコンバージョン獲得の機会を探しきれず、かえってCPAが悪化することもあるため注意が必要です。
3. クリック数の最大化:データ蓄積フェーズの起爆剤
「クリック数の最大化」は、設定された日予算の範囲内で、広告のクリック数を最も多く獲得できるように入札単価を自動調整する戦略です。コンバージョンの獲得よりも、まずはウェブサイトへのトラフィックを増やすことを最優先したい場合に用います。
仕組み:この戦略は、コンバージョンデータではなく、クリックされる可能性を予測して機能します。AIは、設定予算を使い切ることを前提に、より多くのクリックが見込めるキーワードやオーディエンスへの入札を強化します。コンバージョンの質は問わないため、獲得意欲が低いユーザーからのクリックも増える傾向にあります。
最適なケース:
- 広告アカウント開設初期で、コンバージョンデータが全く蓄積されていない場合
- tCPAやtROASへ移行するためのデータを短期間で収集したい場合
- とにかくサイトへのアクセス数を増やし、リマーケティングリストを蓄積したい場合
効果検証の重要指標:
この戦略の成否は、トラフィックの量と質を測る指標で判断します。
- クリック数:予算内でどれだけ多くのクリックを獲得できたか。
- クリック率(CTR):広告が表示された回数に対して、どれだけクリックされたか。広告文やクリエイティブの魅力度を測る指標です。
- 平均クリック単価(CPC):1クリックあたりの費用。想定以上に高騰していないかを確認します。
- インプレッション数:広告が表示された回数。クリック数を増やすためには、まず広告が表示される必要があります。
陥りがちな失敗と対策:
「クリック数の最大化」は、コンバージョンの獲得を目的とした戦略ではありません。そのため、この戦略を長期間使用し続けると、費用対効果が合わなくなるケースがほとんどです。あくまで、コンバージョンベースの自動入札(tCPAやコンバージョン数の最大化など)へ移行するための「準備期間」と位置づけ、必要なデータ(例えば、月間15〜30件以上のコンバージョン)が貯まったら、速やかに戦略を切り替えることが重要です。また、クリック単価が高騰しすぎないように「上限クリック単価」を設定するオプションもありますが、これを厳しく設定しすぎると機械学習の妨げになるため、慎重に利用する必要があります。
4. コンバージョン数の最大化:予算内で獲得件数を最大化したい時に
「コンバージョン数の最大化」は、設定された日予算をすべて使い切ることを前提に、コンバージョン数を最大化することを目指す入札戦略です。「目標コンバージョン単価」のようにCPAの目標値を設定するのではなく、予算の範囲内で1件でも多くのコンバージョン獲得を狙います。
仕組み:AIは、日予算を消化しながらコンバージョンに至る可能性の高いオークションを見つけ出し、積極的に入札を行います。CPAをコントロールする制約がないため、コンバージョンが獲得できると判断すれば、一時的にCPAが高騰することも厭いません。その結果、日によってはCPAが大きく変動する可能性があります。
最適なケース:
- 特定のCPA目標に縛られず、とにかく予算内で獲得件数を最大化したい場合
- セール期間やキャンペーン期間など、短期的にコンバージョン数を最大化したい場合
- 広告予算が余っており、もっと積極的にコンバージョンを取りに行きたい場合
効果検証の重要指標:
この戦略では、獲得効率と獲得量の両面からパフォーマンスを評価します。
- コンバージョン数:最重要指標。予算内でどれだけ多くのコンバージョンを獲得できたか。
- コンバージョン単価(CPA):目標値はありませんが、許容範囲内に収まっているか常に監視が必要です。CPAが高騰しすぎている場合は、戦略の見直しを検討します。
- コンバージョン率(CVR):広告をクリックしたユーザーがどれだけコンバージョンしたか。CVRが低い場合、LPや広告クリエイティブに問題がある可能性があります。
- クリック単価(CPC):参考指標として確認。コンバージョン獲得のためにCPCが高騰する傾向があります。
陥りがちな失敗と対策:
この戦略の最大の注意点は、CPAのコントロールが効かないことです。予算を使い切ることを優先するため、CPAが想定以上に高騰し、結果的に費用対効果が悪化するリスクがあります。このリスクを軽減するために、「目標コンバージョン単価」を任意で設定するオプションがあります。これを設定すると、実質的に「目標コンバージョン単価」戦略と同じように機能しますが、より積極的に予算を消化しにいく挙動となります。CPAの安定性を重視する場合は「目標コンバージョン単価」を、予算消化と獲得件数の最大化を優先する場合は「コンバージョン数の最大化」を選択すると良いでしょう。
5. コンバージョン値の最大化:予算内で売上を最大化する攻めの戦略
「コンバージョン値の最大化」は、「コンバージョン数の最大化」の売上版と考えると理解しやすいでしょう。設定された日予算を使い切りながら、コンバージョンの「価値(売上)」の合計を最大化することを目指す戦略です。「目標広告費用対効果」のようにROASの目標値を設定するのではなく、予算内でとにかく1円でも多くの売上を上げることを狙います。
仕組み:「目標広告費用対効果」と同様に、コンバージョン値のトラッキングが必須です。AIは、予算を消化しながら、より高いコンバージョン値(高価格な商品など)をもたらす可能性の高いユーザーやオークションに集中的に入札を行います。ROASをコントロールする制約がないため、売上を最大化できると判断すれば、一時的にROASが低下することも許容します。
最適なケース:
- 特定のROAS目標に縛られず、予算内で売上を最大化したいECサイト
- 新商品のローンチやセール期間で、とにかく売上規模を追求したい場合
- 予算が潤沢にあり、事業の成長フェーズにある場合
効果検証の重要指標:
売上の最大化を目的とするため、評価指標も売上関連が中心となります。
- コンバージョン値:最重要指標。予算内でどれだけ多くの売上を上げられたか。
- 広告費用対効果(ROAS):目標値はありませんが、事業として許容できる水準を維持できているか、常に監視が必要です。
- コンバージョン単価(CPA)とクリック単価(CPC):参考指標として確認。売上を追うあまり、これらの指標が悪化しすぎていないか注意します。
陥りがちな失敗と対策:
「コンバージョン数の最大化」と同様、ROASのコントロールが効かない点が最大のリスクです。売上は増えたものの、それ以上に広告費がかさんでしまい、結果的に赤字になってしまう可能性があります。このリスクを軽減するために、「目標広告費用対効果」を任意で設定するオプションがあります。これを設定すると、実質的に「目標広告費用対効果」戦略と同様の動きになりますが、よりアグレッシブに予算を使い、売上を最大化しようとします。ROASの安定性を求めるなら「目標広告費用対効果」、予算内での売上最大化を優先するなら「コンバージョン値の最大化」が適しています。
6. 目標インプレッションシェア:競合対策や指名検索で圧倒的優位を築く
「目標インプレッションシェア」は、コンバージョンの獲得ではなく、広告が検索結果ページに表示される割合(インプレッションシェア)と、その掲載順位を目標とする、やや特殊な入札戦略です。獲得目的のキャンペーンで主軸として使うことは稀ですが、特定の目的においては絶大な効果を発揮します。
仕組み:
まず「インプレッションシェア」とは、広告が表示される可能性があった合計回数のうち、実際に広告が表示された回数の割合を指します。例えば、インプレッションシェアが70%なら、残りの30%は予算不足や広告ランクの低さが原因で表示機会を逃していることになります。この戦略では、目標とするインプレッションシェア(例:90%)と、目標とする掲載位置(検索結果ページの最上部、上部、または任意の場所)を設定します。AIは、その目標を達成するために必要な入札単価を自動で設定します。
最適なケース:
- 指名キーワードキャンペーン:自社名や商品名での検索時に、競合他社に広告枠を奪われないよう、常に最上部に表示させたい場合。
- 競合キーワードキャンペーン:特定の競合他社の名称で検索された際に、必ずその競合よりも上に自社広告を表示させたい場合。
効果検証の重要指標:
この戦略の評価は、目標の達成度と、それに伴うコストで行います。
- インプレッションシェア:目標とした割合を達成できているか。
- 掲載順位(平均掲載順位、上部表示率、最上部表示率):目標とした位置に広告を掲載できているか。
- コンバージョン単価(CPA):掲載位置を優先するあまり、CPAが許容範囲を超えて高騰していないか。この戦略はCPAを度外視する傾向があるため、厳重な監視が必要です。
陥りがちな失敗と対策:
最大の注意点は、コンバージョン獲得を目的としていないため、CPAが非常に高騰しやすいことです。掲載位置を維持するために、コンバージョン見込みの低いユーザーにも高額な入札を行ってしまうためです。このリスクを管理するために「上限クリック単価」を設定することが強く推奨されます。これにより、CPAの無限の高騰を防ぐことができます。この戦略は、一般的なキーワードで使うのではなく、上記で挙げたような「何が何でもこのキーワードでは負けられない」という、限定的かつ戦略的な場面で活用すべきものと心得ましょう。
ポートフォリオ入札戦略がもたらす4つの強力なメリット
ポートフォリオ入札戦略を導入することは、単に自動化を進めるだけでなく、広告アカウントの運用に構造的な変革をもたらします。ここでは、導入によって得られる具体的なメリットを4つの側面に分けて詳しく解説します。
メリット1:圧倒的な管理工数の削減と効率化
広告アカウントの規模が拡大し、キャンペーン数が数十、数百に及ぶようになると、個別の入札単価調整や予算管理は膨大な時間を要する作業となります。各キャンペーンのパフォーマンスを日々チェックし、キーワードごとに入札単価を微調整し、キャンペーン間の予算配分を見直す…これらの作業から運用者を解放するのがポートフォリオ入札戦略です。
複数のキャンペーンを一つのポートフォリオにまとめることで、入札戦略の変更や目標値(目標CPAや目標ROAS)の変更は、ポートフォリオの設定を1箇所変更するだけで、紐づけられた全てのキャンペーンに一括で反映されます。これにより、これまでキャンペーンごとに行っていた作業が不要となり、運用工数を劇的に削減できます。削減できた時間は、広告クリエイティブの改善、新しいキーワードの選定、ランディングページの分析といった、より戦略的で創造的な業務に充てることができ、アカウント全体の成果向上に繋がります。
メリット2:高騰リスクの抑制(クリック単価の上限・下限設定)
自動入札は非常に強力ですが、「AIに任せきりにするのは不安だ」「クリック単価(CPC)が意図せず高騰するのが怖い」と感じる運用者も少なくありません。実際に、コンバージョン獲得のためならAIが非常に高いCPCで入札し、結果としてCPAが悪化するケースも存在します。
ポートフォリオ入札戦略では、このリスクをコントロールするために、一部の戦略(目標コンバージョン単価、クリック数の最大化など)で「上限クリック単価」と「下限クリック単価」を設定するオプションが用意されています。例えば、「いかなる場合でも1クリックあたり500円以上の入札は許可しない」といった上限を設定しておくことで、想定外のCPC高騰を防ぎ、安心して自動入札を活用できます。
注意点と賢い使い方:
ただし、この上限・下限設定は諸刃の剣であることも理解しておく必要があります。あまりに厳しい制限(低すぎる上限設定など)をかけると、AIが最適な入札を行う機会を奪ってしまい、機械学習のパフォーマンスを著しく低下させる可能性があります。媒体側もこの機能の利用は慎重になるよう推奨しています。おすすめの使い方は、まずは上限を設定せずに運用を開始し、パフォーマンスデータを確認した上で、「明らかに高騰しすぎている」と感じる場合にのみ、現状の平均CPCから少し余裕を持たせた水準で上限を設定するというアプローチです。これにより、リスクを管理しつつ、機械学習の効果を最大限に引き出すことができます。
メリット3:アカウント全体での効率的な比較と予算配分
ポートフォリオ入札戦略の本質は「全体最適」にあります。単体のキャンペーンごとではなく、ポートフォリオ全体で目標を達成しようと自動で調整するため、成果の良いキャンペーンやキーワードには自動的に多くの予算が配分され、成果の悪い部分への投資は抑制されます。
これは、Google広告の「共有予算」機能と組み合わせることで、さらに効果を発揮します。共有予算とは、複数のキャンペーンで一つの予算を共有する機能です。例えば、キャンペーンA、B、Cを一つのポートフォリオにまとめ、さらにそれらを一つの共有予算に設定します。すると、AIはポートフォリオ全体の目標CPAを達成するために、その時々で最もコンバージョンを獲得しやすいキャンペーン(例えばキャンペーンA)に共有予算を集中投下するといった、動的な予算配分を行います。手動で日々キャンペーンの予算配分を見直す手間が省けるだけでなく、機会損失を防ぎ、アカウント全体の投資対効果を最大化することが可能になります。
メリット4:柔軟な目標設定(広告グループ単位での目標値変更)
ポートフォリオ入札戦略はキャンペーン単位で適用しますが、その中でもさらに細かい粒度での目標値調整が可能です。具体的には、「目標コンバージョン単価」や「目標広告費用対効果」戦略において、広告グループごとに個別の目標値を設定できます。
例えば、ポートフォリオ全体としては目標CPAを5,000円に設定しているものの、特に利益率の高い特定の商品を扱う広告グループAだけは、より多くのコンバージョンを獲得したいため、目標CPAを7,000円に設定する、といった柔軟な運用が可能です。逆に、利益率の低い商品を扱う広告グループBは、CPAを厳しく管理するために目標CPAを3,000円に設定することもできます。このように、全体の目標を維持しつつ、特定の広告グループの配信を強化したり抑制したりできるため、よりビジネス戦略に即した精緻なアカウントコントロールが実現します。ただし、前述したクリック単価の上限・下限設定はキャンペーン単位でのみ適用され、広告グループ単位では設定できない点には注意が必要です。
導入前に知るべきポートフォリオ入札戦略の3つのデメリットと対策
ポートフォリオ入札戦略は非常に強力なツールですが、万能ではありません。その特性を理解せずに導入すると、かえってパフォーマンスを悪化させる可能性もあります。ここでは、事前に把握しておくべき3つの主要なデメリットと、その対策について解説します。
デメリット1:成果の源泉となる「データ蓄積」が必須
ポートフォリオ入札戦略、ひいてはGoogleの自動入札全般に言えることですが、その最適化は過去のデータに基づいて行われます。AIが「どのようなユーザーがコンバージョンに至るか」を学習するための判断材料、すなわちコンバージョンデータが必要不可欠です。このデータが十分に蓄積されていない状態で導入しても、AIは何を基準に判断すれば良いかわからず、調整の精度が著しく不安定になります。
一般的に、コンバージョンベースの自動入札(tCPAやtROASなど)を安定して機能させるためには、過去30日間で少なくとも30件、理想的には50件以上のコンバージョンデータが必要とされています。ポートフォリオ全体でこの基準を満たせない場合、手動で運用していた時よりも成果が悪化するリスクがあります。まずは「クリック数の最大化」戦略でトラフィックを集め、コンバージョンデータを蓄積してから、本命の戦略に移行するという段階的なアプローチが有効です。
デメリット2:外部要因への対応(季節性やセールへの調整)
AIは過去のデータに基づいて未来を予測しますが、予期せぬ急激な市場の変化に対応するのは苦手です。例えば、季節性の高い商材(クリスマスケーキや水着など)や、ブラックフライデーのような大規模なセール期間では、コンバージョン率が通常とは全く異なる動きを見せます。
AIは、セール期間中の異常に高いコンバージョン率も過去のデータとして学習してしまうため、セール終了後もその感覚で入札を続けてしまい、パフォーマンスが不安定になることがあります。このような特定の期間がパフォーマンスに大きな影響を与えることが事前にわかっている場合は、「季節性の調整」という機能を使うことで対策が可能です。この機能で「2025年12月20日から25日まではコンバージョン率が50%上昇する見込み」といった情報をAIに事前に与えておくことで、AIはその期間のデータを特殊なものとして扱い、期間終了後の学習への影響を最小限に抑えることができます。この設定を怠ると、AIの判断が狂い、正常な状態に戻るまで時間がかかるため注意が必要です。
デメリット3:最適化までの「学習期間」の存在
ポートフォリオ入札戦略を新たに設定したり、目標値を大幅に変更したりすると、AIが新しい設定に適応するための「学習期間」が発生します。この期間中、AIは様々なパターンの入札を試行錯誤するため、CPAやROASといったパフォーマンス指標が大きく変動し、一時的に悪化することがよくあります。
この学習期間は、一般的に1週間から2週間程度続くとされています。多くの運用者が、この期間中のパフォーマンスの不安定さに耐えきれず、頻繁に目標値を変更したり、手動運用に戻してしまったりしますが、これは最悪の選択です。AIの学習を妨害し、いつまでたっても最適化が進まないという悪循環に陥ります。学習期間中は、パフォーマンスが不安定になることを前提とし、設定を変更せずにじっと我慢して見守ることが極めて重要です。この期間を乗り越えて初めて、自動入札の真価が発揮されるのです。
【実践】ポートフォリオ入札戦略の具体的な設定方法
ここでは、実際にGoogle広告の管理画面でポートフォリオ入札戦略を設定する手順を、2つの主要な方法に分けて解説します。どちらの方法でも同じ結果になりますが、アカウントの状況に応じて使い分けが可能です。
方法1:共有ライブラリから新規作成する|Google
この方法は、まずポートフォリオという「器」を作成し、そこに後からキャンペーンを追加していくイメージです。複数のキャンペーンをまとめて管理する際に最も一般的な方法です。
- Google広告アカウントにログインします。
- 管理画面上部のメニューから「ツールと設定」アイコンをクリックします。
- 表示されたメニューの中から「共有ライブラリ」セクションにある「入札戦略」を選択します。
- 青いプラス(+)ボタンをクリックし、作成したい入札戦略のタイプを選択します。(例:「目標コンバージョン単価」)
- 「新しいポートフォリオ入札戦略の名前」を入力します。後から見て内容がわかる名前(例:「主力商品_目標CPAポートフォリオ」)をつけましょう。
- このポートフォリオに含めるキャンペーンを選択します。この時点では選択せず、後から追加することも可能です。
- 選択した入札戦略に応じた設定値を入力します。(例:目標CPAの金額、上限・下限CPCなど)
- 「保存」をクリックして作成を完了します。
方法2:既存のキャンペーン設定から作成する|Google
この方法は、特定のキャンペーンの入札戦略を変更する過程で、新しいポートフォリオを作成するアプローチです。一つのキャンペーンを基点にポートフォリオ化を始めたい場合に便利です。
- Google広告アカウントにログインします。
- 左側のナビゲーションメニューから「キャンペーン」をクリックします。
- ポートフォリオに含めたいキャンペーンのチェックボックスをオンにします。
- キャンペーン一覧の上に表示される青い編集バーで「編集」をクリックし、プルダウンメニューから「入札戦略を変更」を選択します。
- 「新しいポートフォリオ入札戦略を作成する」を選択します。
- 作成したい入札戦略のタイプを選択し、新しい戦略の設定(目標値など)を入力し、名前を付けます。
- 「適用」をクリックします。これにより、選択したキャンペーンを含む新しいポートフォリオが作成されます。既存のポートフォリオにキャンペーンを追加したい場合は、ここで「既存のポートフォリオ入札戦略を使用する」を選択し、リストから該当のポートフォリオを選びます。
引用:Google広告ヘルプ
https://support.google.com/google-ads/answer/6263058?sjid=14052128645454265862-AP
Yahoo!広告での設定方法
Yahoo!広告でも同様の機能が提供されており、「ポートフォリオ入札」という名称で利用可能です。設定方法はGoogle広告と似ています。
- 広告管理ツールにログインし、「検索広告」タブをクリックします。
- 「ツール」タブのプルダウンメニューから「ポートフォリオ入札管理」を選択します。
- 「ポートフォリオ入札設定の作成」ボタンをクリックします。
- 作成したい自動入札のタイプ(例:「コンバージョン単価の目標値」)を選択します。
- 選択した自動入札タイプに応じて、ポートフォリオ名や目標値などの必要な項目を入力・設定します。
- 「作成」ボタンをクリックして完了です。
引用:Yahoo!広告ヘルプ
https://ads-help.yahoo-net.jp/s/article/H000044793?language=ja
ポートフォリオ入札戦略のパフォーマンスを確認・分析する方法
ポートフォリオ入札戦略を導入した後、そのパフォーマンスがどうなっているのか、AIが意図通りに機能しているのかを正しく評価することは、手動入札以上に重要です。そのための強力なツールが「入札戦略レポート」です。
このレポートは、共有ライブラリの「入札戦略」セクションで、各ポートフォリオ名をクリックすることで確認できます。ここには、手動運用時のようにキーワード単位の細かな指標が表示されるわけではありませんが、ポートフォリオ全体としてのパフォーマンスを評価するための重要なデータが集約されています。
入札戦略レポートで確認すべき主要な項目:
- 主要な指標の推移グラフ:選択した期間における、目標値(平均目標CPAなど)と実績値(実際のCPA)の推移をグラフで視覚的に確認できます。目標値と実績値が乖離せず、近い位置で推移していれば、学習が順調に進んでいる証拠です。
- 入札戦略のステータス:「学習中」「制限付き」「有効」など、現在のポートフォリオの状態が表示されます。「学習中」の場合は、パフォーマンスが不安定になることを念頭に置いておく必要があります。「制限付き」と表示されている場合は、予算や入札単価の上限設定、あるいはデータ不足などが原因でAIが十分にパフォーマンスを発揮できていないことを示しており、何らかの対策が必要です。
- コンバージョン達成までの所要時間:ユーザーが広告をクリックしてから、実際にコンバージョンに至るまでに平均してどのくらいの時間がかかっているかを示します。この「タイムラグ」を把握することは、パフォーマンスを正しく評価する上で非常に重要です。
分析時の注意点:コンバージョン計上のタイムラグを考慮する
広告運用者が陥りやすい間違いの一つが、このコンバージョン計上のタイムラグを無視して、直近のデータだけでパフォーマンスを判断してしまうことです。特に、車や不動産、高価格帯のBtoBサービスなど、検討期間が長い商材では、ユーザーが広告をクリックしてから数日後、あるいは数週間後にコンバージョンすることは珍しくありません。
例えば、レポートの集計期間を「昨日」に設定してCPAを確認したとします。昨日のクリックの中には、これから数日かけて検討し、未来の時点でコンバージョンするユーザーが含まれている可能性があります。しかし、現時点ではそれらはコンバージョンとして計上されていないため、見かけ上のCPAが非常に高く見えてしまうのです。この見せかけの悪化に焦って目標CPAを引き上げてしまうと、本来獲得できたはずのコンバージョンを逃すことになりかねません。
対策としては、自社の商材の検討期間を考慮し、パフォーマンスを評価する際は、コンバージョンデータがある程度出揃う期間(例えば、過去7日間や過去30日間など)で分析することが重要です。入札戦略レポートで「コンバージョン達成までの所要時間」を確認し、自社のビジネスにおけるタイムラグを把握した上で、適切な期間で評価する癖をつけましょう。
失敗しないためのポートフォリオ入札戦略の3つの重要注意点
ポートフォリオ入札戦略の設定や運用において、思わぬ落とし穴にはまってしまうことがあります。ここでは、特に注意すべき3つのポイントを解説します。
注意点1:オーナーアカウントの設定ミス
ポートフォリオ入札戦略を作成する際、「オーナー」を「クライアントセンター(MCC)アカウント」にするか、「個別の広告アカウント」にするかを選択できます。この設定は、特に複数のアカウントを管理する広告代理店などにとって非常に重要です。
オーナーをMCCアカウントに設定すると、そのMCCアカウントの配下にある全ての広告アカウントで、そのポートフォリオ入札戦略を共有できるようになります。一見便利に見えますが、これは大きなリスクを伴います。操作ミスにより、本来適用すべきでない別クライアントのキャンペーンに、誤ったポートフォリオを紐づけてしまう可能性があるのです。例えば、A社の目標CPAポートフォリオを、B社のキャンペーンに適用してしまい、予算や成果がめちゃくちゃになってしまうといった大事故に繋がりかねません。
推奨される設定:
このようなヒューマンエラーを防ぐため、原則として、オーナーは「該当の広告配信アカウント(個別の広告アカウント)」に設定することを強く推奨します。これにより、作成したポートフォリオはそのアカウント内でしか利用できなくなり、他アカウントへの誤適用のリスクを根本から断つことができます。自社で複数のアカウントを運用しており、それらを横断したポートフォリオ戦略を意図的に利用したい、という明確な目的がある場合に限り、MCCアカウントをオーナーに設定することを検討しましょう。
注意点2:キャンペーンの適切なグルーピング
ポートフォリオ入札戦略の成否は、どのキャンペーンを一つのグループにまとめるか、という「グルーピング」の設計思想に大きく左右されます。全く性質の異なるキャンペーンを無理やり一つのポートフォリオにまとめても、AIは混乱し、良い結果は得られません。
効果的なグルーピングの考え方:
- 同じ目標値を持つキャンペーン:最も基本的な考え方です。目標CPAが5,000円のキャンペーン群や、目標ROASが400%のキャンペーン群など、同じKPIと目標値を目指すものをまとめましょう。
- 利益率が近い商品・サービスのキャンペーン:特に目標ROAS戦略を用いる場合、利益率が大きく異なる商品を同じポートフォリオに入れると、利益率の低い商品ばかり売れて、売上は上がっても利益が出ないという事態になりかねません。利益率の近い商品群でポートフォリオを分けるのが賢明です。
- コンバージョン地点が同じキャンペーン:「お問い合わせ完了」と「ホワイトペーパーダウンロード」では、コンバージョンの価値が全く異なります。同じコンバージョンポイントを目標とするキャンペーンでグループを作成しましょう。
闇雲にまとめるのではなく、ビジネスの構造やKPIに基づいて論理的にグルーピングを行うことが、AIの学習効果を最大限に引き出すための鍵となります。
注意点3:目標設定の現実性
自動入札は魔法の杖ではありません。AIといえども、現実離れした目標を達成することはできません。デメリットのセクションでも触れましたが、過去の実績を無視した無謀な目標設定は、パフォーマンスを悪化させる最大の要因です。
ポートフォリオ入札戦略を導入する際は、必ず過去30日間などの実績データを確認し、現状のCPAやROASを把握してください。そして、最初の目標値は、その実績値と同等か、少しだけ挑戦的なレベル(例:実績CPAから5〜10%減)に設定するのが鉄則です。そこから、学習期間を経てパフォーマンスが安定したことを確認した上で、数週間から1ヶ月単位で、少しずつ目標値を調整していくという、地道なプロセスが必要です。「一気にCPAを半減させたい」という気持ちは分かりますが、急がば回れの精神が、最終的に最も良い結果をもたらします。
ポートフォリオ入札戦略が真価を発揮するおすすめのケース
理論を理解した上で、具体的にどのような状況でポートフォリオ入札戦略が特に有効なのか、2つの典型的なビジネスケースを挙げて解説します。
ケース1:配信地域やデバイスでキャンペーンが分かれている場合
例えば、全国に店舗展開するサービス業で、東京、大阪、福岡など、エリアごとにキャンペーンを分けて運用しているとします。検索広告では広告グループ単位でのエリア設定ができないため、このようなアカウント構成は一般的です。しかし、商品やサービスの目標CPAは全エリアで共通であるケースが多いでしょう。
このような場合に、エリアごとのキャンペーンを個別の自動入札で運用していると、あるエリア(例:福岡)ではコンバージョンデータが少なく学習が進まない一方、別のエリア(例:東京)では目標を大幅にクリアしている、といった成果のバラつきが発生しがちです。手動でエリア間の予算配分を調整するのは非常に手間がかかります。
ポートフォリオ入札戦略の活用:
ここで、全エリアのキャンペーンを一つの「目標CPAポートフォリオ」にまとめることで、状況は一変します。データが豊富な東京キャンペーンの学習成果を、データが少ない福岡キャンペーンの入札判断にも活用できるようになり、全エリアで最適化が進みます。さらに「共有予算」機能を組み合わせれば、その時々で最も成果の良いエリアに自動で予算が寄せられるため、運用工数を削減しながら、アカウント全体のコンバージョン数を最大化することが可能になります。これは、デバイス(PC、スマホ)でキャンペーンを分けている場合にも同様に応用できます。
ケース2:複数の商品カテゴリを扱うECサイトで、会社全体の利益を最大化したい場合
複数の商品カテゴリ(例:アパレル、家電、コスメ)を扱う大規模なECサイトを想像してください。多くの場合、カテゴリごとに担当部署や予算が分かれており、それぞれが個別のキャンペーンを運用しています。各部署はそれぞれの目標ROASを追っていますが、会社全体としては「広告費全体のROASを最大化する」という最終目標があります。
あるカテゴリ(例:家電)の市況が悪化し、成果が落ち込んだ場合、従来の運用ではそのカテゴリの予算を減らし、他のカテゴリの予算を増やすといった調整を、会議などを経て手動で行う必要がありました。これでは市場の変化に迅速に対応できません。
ポートフォリオ入札戦略の活用:
このようなケースで、「目標広告費用対効果(tROAS)」のポートフォリオ入札戦略が絶大な力を発揮します。利益率の近い商品カテゴリのキャンペーン群を一つのポートフォリオにまとめ、会社全体の目標ROASを設定します。するとAIは、ポートフォリオ全体で目標を達成するために、市況が良く、ROASが高いカテゴリ(例:アパレル)の入札を自動で強化し、逆に市況が悪化したカテゴリ(例:家電)への入札は抑制します。これにより、人の手を介さずとも、常に最も費用対効果の高い場所に広告費が投下され、会社全体の利益を最大化する動きが自動で実現されるのです。
ポートフォリオ入札戦略の使用を避けるべきケース
強力なポートフォリオ入札戦略ですが、導入が逆効果になるケースも存在します。自社のアカウントが以下のケースに当てはまらないか、導入前に必ず確認してください。
ケース1:配信期間が極端に短い場合
1〜2週間限定のセールプロモーションなど、配信期間が極端に短いキャンペーンでは、ポートフォリオ入札戦略、特にコンバージョンベースの戦略は不向きです。なぜなら、AIが最適化のために必要とする「学習期間」(1〜2週間)だけで、プロモーション期間の大半が終わってしまうからです。
AIがようやく学習を終え、パフォーマンスを発揮し始める頃には、すでにキャンペーンは終了間際。これでは、最も成果の悪い期間だけを経験して終わることになりかねません。このような短期決戦のキャンペーンでは、自動入札に頼るよりも、経験に基づいた手動入札や、学習期間の短い「クリック数の最大化」などを選択する方が賢明です。
ケース2:予算が極端に少ない場合
自動入札、特に「目標コンバージョン単価」を機能させるには、ある程度の予算が必要です。Googleが推奨する一つの目安として、「日予算は目標CPAの2〜3倍以上」というものがあります。例えば、目標CPAが5,000円なのであれば、日予算は10,000円〜15,000円以上が望ましいとされます。
もし、月の広告予算が数万円程度で、日予算が目標CPAを大きく下回るような設定になっている場合、AIはコンバージョン獲得の機会を探すための十分なクリックを得ることができません。結果として広告表示が極端に制限され、最適化が全く進まないという事態に陥ります。このような少額予算での運用では、ポートフォリオ入札戦略の導入は時期尚早と言えるでしょう。
ケース3:キャンペーンの配信停止・再開を頻繁に行う場合
AIの学習データは、常に新鮮であることが重要です。予算の都合などでキャンペーンの配信停止と再開を頻繁に繰り返すと、AIが学習したデータの鮮度が落ちてしまいます。長期間停止した後にキャンペーンを再開すると、AIは市場の変化についていけず、再度ゼロから学習をやり直すような状態になり、パフォーマンスが安定するまでに時間がかかります。
ポートフォリオ入札戦略を導入するならば、継続的に広告を配信し、AIに安定した学習環境を提供することが前提となります。もし、やむを得ない理由で長期間(例えば1週間以上)停止してしまった場合は、「データ除外」という機能の活用を検討しましょう。
トラブル発生時の対処法:「データ除外」機能
コンバージョンタグの設定ミスで正確な計測ができていなかった期間や、ウェブサイトのサーバーダウンでコンバージョンが不可能だった期間など、明らかに異常なデータが発生してしまった場合、その期間のデータをAIの学習から除外することができます。これが「データ除外」機能です。この設定を行うことで、汚染されたデータが未来の入札判断に悪影響を及ぼすのを防ぎ、自動入札の早期の正常化を促すことができます。
まとめ:ポートフォリオ入札戦略を使いこなし、広告運用の次のステージへ
本記事では、Google広告のポートフォリオ入札戦略について、その本質的な仕組みから、6種類の戦略の詳細、具体的なメリット・デメリット、そして実践的な設定方法や運用ノウハウに至るまで、包括的に解説しました。
ポートフォリオ入札戦略は、単なる自動化ツールではありません。複数のキャンペーンを横断してデータを共有し、アカウント全体の目標達成を目指す「全体最適」という思想に基づいた、広告運用のための強力なエンジンです。これを使いこなすことで、運用者は日々の細かな入札調整作業から解放され、より戦略的な分析やクリエイティブ改善に時間を投下できるようになります。
重要なのは、自社のビジネスモデルやKPIに最適な戦略を選択し、AIが最大限のパフォーマンスを発揮できる環境(十分なデータ量、適切なグルーピング、現実的な目標設定)を整えることです。そして、導入後も学習期間の存在を理解し、忍耐強く見守り、入札戦略レポートを通じて正しくパフォーマンスを評価し続けることが成功の鍵となります。
もし、貴社のアカウントが複数のキャンペーンを運用し、さらなる成果向上や効率化を目指しているのであれば、ポートフォリオ入札戦略の導入は非常に有効な一手となり得ます。本記事を参考に、まずは一つのポートフォリオからスモールスタートしてみてはいかがでしょうか。その一歩が、貴社の広告運用を新たなステージへと引き上げるきっかけになるはずです。
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