宣伝失礼しました。本編に移ります。
2025年9月、消費者庁はジャパネットたかたの「【2025】特大和洋おせち2段重」に関する価格表示を、景品表示法第5条第2号の有利誤認に該当するとして措置命令を公表いたしました。報道や公表資料を突き合わせると、焦点は「将来の販売価格」を対照軸にした二重価格表示にあります。本稿では事実関係の整理にとどまらず、実務の視点から“どこに落とし穴があったのか”“何をどう書けばよかったのか”までを徹底分解し、すぐに現場で使えるチェックリスト、表現テンプレート、組織設計の要点までを提供いたします。
何が起きたのか:時系列で押さえる「表示」と「実態」
時系列(概念図) ┌─────────┬───────────────────────┬──────────┐ │ 7/22頃 │ 10/8~11/23(キャンペーン) │ 11/23以降 │ ├─────────┼───────────────────────┼──────────┤ │ 早期施策準備 │ 表示:「通常29,980円」→「今だけ19,980円」│ 実販売:終了 │ │ │ 訴求:「早期予約でお得」 │ 将来価格:適用無 │ └─────────┴───────────────────────┴──────────┘ 注:キャンペーン後の「通常価格」での販売計画・実施は確認されず
表示内容は「ジャパネット通常価格29,980円が1万円値引きで19,980円(早期予約キャンペーン)」という構成でした。訴求の読み筋は「今買えば将来価格より安い」。ところが販売はキャンペーン終了と同時に完了しており、将来の対照価格は実際の購買選択に現れない前提値でした。この「表示ロジック」と「販売実態」のすれ違いが、消費者の合理的選択を歪めると評価されたポイントでございます。
法的評価の核心:将来の販売価格を比較軸にした二重価格表示
比較対照の設計図 ┌──────────────┬─────────────────────────┐ │ 比較軸(表示上) │ 「通常価格」=将来の販売予定価格 │ ├──────────────┼─────────────────────────┤ │ 実体(実務) │ キャンペーンで完売→将来価格は事後に顕在化せず │ ├──────────────┼─────────────────────────┤ │ 評価の帰結 │ 「今ならお得」の根拠が将来仮定に依存→誤認誘引 │ └──────────────┴─────────────────────────┘
法の射程は「一般消費者に実際以上に有利と誤認させる表示」か否かにあります。将来価格を対照に置く場合でも、合理的かつ確実に実施される計画が裏付けとして要請されます。完売を理由に将来価格が実現しなかったという事後事実は、当初の合理的計画の欠缺を補正いたしません。価格比較に将来値を用いるなら、販売の継続条件、在庫規模、表示の前提を注記で明らかにし、実現可能性を担保する運用体制が不可欠でございます。
ジャパネット側の主張と論点整理:過去実績・完売・大量仕入れ
主張の三点セット(概念マップ) ┌──────────┬───────────────────────────┐ │ 過去実績 │ 直前まで29,980円の販売実績がある │ ├──────────┼───────────────────────────┤ │ 完売の事実 │ 2024年は期間内完売→終了は企画趣旨に沿う │ ├──────────┼───────────────────────────┤ │ 仕入れ規模 │ 43万個規模の調達=値引きは企業努力の成果 │ └──────────┴───────────────────────────┘ → 課題:比較軸は「過去価格」か「将来価格」か/注記で前提提示は十分か
同社は「直前の通常価格での販売実績」「完売は施策設計の帰結」「大量仕入れによる低価格化」という三点で正当性を強調しております。実務の眼でみると、ここで問われるのは「表示が何を比較軸に据えたか」です。過去実績を軸にした二重価格ならば“最近相当期間”の要件を充たす説明設計が必要ですし、将来価格を軸にした「今だけ安い」表示ならば、その実現計画を具体的に裏づけ、完売による非実現リスクと消費者の認知との関係を注記でクリアにすることが求められます。
法の条文を正面から読む:景品表示法第5条第2号(有利誤認)の要点
法解剖(要点図) 第5条2号(有利誤認)= 「価格・取引条件について、実際より著しく有利と誤認させる表示」の禁止 ├─ 対象:価格、手数料、支払条件、付帯条件 等 ├─ 判断:一般消費者の合理的選択を阻害するおそれ └─ 救済:第7条 措置命令(周知・再発防止・将来差止)
本件の評価軸は、価格の対照設定により「いま買えば将来より有利」という印象を与えたかどうかです。割引自体の可否ではなく、比較の設計・注記の妥当性・運用計画の実在性が問われます。クリエイティブの巧拙ではなく、事実に基づく合理的な比較であるかを、事前に証拠で支えられる体制を確保しておくことが、実務の決定的な鍵となります。
二重価格のガイドライン:「最近相当期間」と“8週間ルール”の本義
ガイドラインの運用感覚(擬似フローチャート)
[比較軸は何か]
├─ 過去価格 → 最近相当期間(例:直近8週間中の相当期間)での販売実績
│ + 期間・時点の明示(例:◯月◯日~◯月◯日 ◯円)
└─ 将来価格 → 合理的かつ確実な販売計画の存在(数量・期間・条件の裏付け)
+ 非実現時のリスク告知と表示の再設計
過去価格を用いるなら、直近期間における販売実績と、その期間・時点を正確に明記することが出発点です。他方、将来価格を用いるなら、将来の価格が実体として現れるだけの確度を設計に織り込み、数量・期間・チャネル条件を社内決裁で文書化しておく必要がございます。いずれにしても「割引の根拠」を広告の外側ではなく、広告の内側の言語と設計で説明することが、誤認防止の決め手でございます。
同種事例の示唆:おせちの二重価格、通販の比較対照、手数料の非開示
類型比較(要点表) ┌────────────┬──────────────┬────────────────────┐ │ ライフサポート(2019)│ おせち二重価格 │ 過去価格の実績乏しい比較対照 │ ├────────────┼──────────────┼────────────────────┤ │ 北海道産地直送(2022)│ 通販価格の比較対照 │ 通販実績のない通常価格の使用 │ ├────────────┼──────────────┼────────────────────┤ │ ドミノ・ピザ(2023) │ 半額表示と手数料 │ 追加サービス料で実質半額にならず│ └────────────┴──────────────┴────────────────────┘
おせちの二重価格は、比較対照の実績が脆弱である点が致命傷になりやすい領域でございます。食品通販では、チャネルごとの価格実績の取り扱い(店頭実績のEC転用可否)にも注意が必要です。また小売・外食の割引訴求では、手数料やサービス料を表示価格にどう織り込むかが直ちに有利誤認の争点になります。いずれも、「比較の根拠」と「条件の開示」を、クリエイティブの第一面に持ち出すか否かで、評価は大きく分かれます。
誤認なく「売れる」を実現する:表示・コピーの設計原則
表示設計のチェックリスト(抜粋) □ 比較軸は過去価格か将来価格か明確か □ 対照価格の実績(期間・数量・チャネル)を裏付ける証憑はあるか □ 重要条件(在庫上限/販売終了時の扱い/手数料/対象外商品)を第一面で開示 □ 「今だけ」訴求は終了後の価格・供給計画と整合しているか □ 注記の文字数・可読性・位置は主要訴求の近傍にあるか
実務で有効なのは、訴求コピーの“となり”に置く短い根拠文です。「今だけ◯◯円引き」の直下に、「◯月◯日~◯月◯日、各日◯個、在庫到達で終了」「◯月◯日以降は◯◯円(予定)※供給計画に基づく」など、抽象ではなく具体表現を入れます。注記を「読む気にさせる」デザインも同等に重要で、主要訴求フォントの80%以上、タップ領域直下、改行位置の可読配慮など、表現と法令対応を同一テーブルで設計することが効果的です。
コピーの是正例:Before/Afterで“同じ訴求力”を保つ
Before 「通常29,980円が今だけ1万円引き!」 After(根拠と条件を内包) 「早期予約 19,980円(◯/◯~◯/◯・各日◯個) 直近販売29,980円(◯/◯~◯/◯)を基準に値引き ※在庫到達で終了、終了後は29,980円で販売予定」
「短いほど強い」は広告の鉄則ですが、根拠を伴わない短さはリスクを増幅いたします。“短く深く”――つまり、主要訴求の行間に最低限の根拠文を織り込む技法に切り替えることで、コンバージョンを落とさずに適法性と信頼性を同時に高められます。完売の可能性がある施策では、完売時の表示切替(例:「完売しました/終了後の通常価格販売はありません」)も、事前に自動切替まで含めた運用設計に落とし込むことが肝要です。
ワークフローで防ぐ:法務×宣伝×ECの“スイムレーン”
組織スイムレーン(簡略図) 宣伝/MD: 企画 → 価格設計 → クリエ案 → 主要訴求・根拠文草案 法務/品証: リスク評価 → 対照価格証憑確認 → 注記・条件文修正 EC/開発: UI配置 → 注記可読性検証 → 在庫連動・自動切替 運用/CS: 公開後モニタリング → 問合せFAQ更新 → 途中是正フロー
表示リスクは制作現場だけでは解消しきれません。重要なのは、価格・在庫・施策条件を管理する基幹側のデータと、フロントの表示をAPIで連携させ、終売・完売・価格改定などのイベントで自動的に表示が切り替わる仕掛けを標準化することです。チェックリストを回すだけでは、公開後の動的変化に追随できません。ワークフローの“自動是正力”が、法令適合と転換率の両立を後押しいたします。
数字で捉える損失:措置命令→信頼毀損→収益影響の連鎖
影響モデル(概念図) 不当表示判定 ↓ (報道波及) ブランド想起の低下(◯%) ↓ (流入減) 自然検索・指名流入減(◯%) ↓ (CVR低下) 「急ぎ買い」誘因の鈍化(◯%) ↓ (収益影響) 販促コストの上昇・LTVの毀損(◯%)
価格表示の是正は一時的なCVRの低下を招く場合がございますが、信頼性の獲得が中長期の指名流入とLTVを押し上げます。むしろ「根拠の見える化」を武器に、比較・検討フェーズのユーザーを獲りにいく発想が得策です。具体的には、価格比較表・仕入れ根拠の可視化・在庫公開など、意図的に情報を開き、疑念を先回りで解消することで、広告依存の販促構造からの脱却が可能になります。
緊急時の運用:声明、Q&A、CSの即応テンプレ
即応テンプレ骨子 1)事実関係:表示期間/比較軸/注記/実販売の状態 2)是正措置:表示修正/周知方法/再発防止フロー 3)購入者対応:問い合わせ窓口/返金・返品の方針の要否判断 4)今後の基準:比較対照価格の定義/注記の標準文言
価格表示を巡る事案では、声明の初動と同時にCS動線の統一が不可欠です。FAQの統一文言、一次回答のSLA、SNSでの一貫表現、媒体別の差し替え手順をあらかじめ雛形化しておくと、現場の負荷と炎上の二次波及を抑えられます。周知の導線(トップ・カテゴリ・商品詳細・カート・購入完了メール)を“同時に”差し替えるための運用スクリプトも、法務・EC・開発の三者で共有しておくと強力です。
「価格の透明性」で勝つ:ニュースが示すこれからの表現スタンダード
次世代スタンダード三原則 A. 比較の見える化(対照価格の時点・期間・チャネルを明示) B. 条件の先出し(在庫・終了条件・手数料を第一面で) C. 運用の自動化(在庫・価格イベントで表示を自動切替)
今回のニュースは、価格を巡る競争が「誰が一番安いか」から「誰が一番透明か」へと軸足を移していることを明らかにしました。透明性は、単なるコンプライアンスではなく、比較に疲れた消費者の認知負荷を下げ、選好を加速させるマーケティング資産です。広告文の一行、注記の一文、図表の一枚。その精度が、売上だけでなく、事業の正当性と社会的信頼を同時に押し上げます。価格の「理由」を示せるか。これこそが、これからの時代に最も強いコピーでございます。
当社では、AI超特化型・自立進化広告運用マシン「NovaSphere」を提供しています。もしこの記事を読んで
・理屈はわかったけど自社でやるとなると不安
・自社のアカウントや商品でオーダーメイドでやっておいてほしい
・記事に書いてない問題点が発生している
・記事を読んでもよくわからなかった
など思った方は、ぜひ下記のページをご覧ください。手っ取り早く解消しましょう
▼AI超特化型・自立進化広告運用マシンNovaSphere▼