博報堂テクノロジーズ、マルチAIエージェント「Nomatica 2.0」正式発表――企画の0→10を一気通貫で支援し、調査・戦略立案・資料化までを加速

リリースの背景と全体像

博報堂テクノロジーズは、複数の専門家AIと生活者AIが協調して働くマルチAIエージェントシステムの最新版「Nomatica 2.0」を発表いたしました。これにより、従来のアイデア創出支援にとどまらず、リサーチ、戦略立案、そしてデザイン性の高い資料作成まで、企画業務の全工程を単一のプラットフォーム上で完結できる体制が整備されました。

今回のアップデートでは、利用者の意図を対話で読み解き最適な指示文とエージェント構成を自動生成する「コンシェルジュAI」、大量のウェブ情報を収集・比較・要約し、出典と根拠の明確な重厚レポートを自動作成する「Deep Research」、そして目的に即したスライドを数分で量産できる「デザイン資料作成」という三つの中核機能が中長期の運用を見据えて実装されました。

企画の品質は、発想力だけではなく、情報の深さと意思決定の速さに規定されます。Nomatica 2.0は、この三点を同時に底上げするための実務志向のアーキテクチャを採用し、現場で価値が出るディテールにこだわって構築されています。単一AIの便利さを超え、複数AIが役割分担しながら合意形成へ至る“AI版ブレーンストーミング会議”を標準化できる点が最大の特長です。

なぜ今『2.0』なのか

Nomaticaは、2024年のサービス提供開始以降、商品開発、マーケティング、経営企画など高度な知見と複数視点が求められる領域で導入が進み、専門家AIと生活者AIをあわせた三十種類以上のペルソナが連携する設計で評価を得てまいりました。初期版では、多様な専門家AIを自由に編成してブレインストーミングを行い、短時間で多角的な企画案を得ることに強みがありました。

しかし、ユーザーの現場からは「調査から資料化までを一気通貫で支援してほしい」「複雑なプロンプト設計なしで素早く成果が欲しい」「アイデアの解像度をさらに高めたい」といった要望が継続的に寄せられていました。2.0はこれらの声に対する体系的な回答であり、発想、検証、表現という三位一体のプロセスをワンストップで提供する転換点となります。

3つの中核機能：コンシェルジュAI／Deep Research／デザイン資料作成

コンシェルジュAIは、ユーザーの曖昧な要望を丁寧にヒアリングし、論点を構造化したうえで、最適なプロンプトとエージェントの組み合わせを自動生成いたします。これにより、専門的なプロンプト設計や複雑な画面操作を省き、誰でも初回から期待値の高いアウトプットへ到達できるユーザー体験を提供します。

たとえば「Z世代向けの新作ドリンクを三カ月で市場投入する計画を作りたい」と伝えるだけで、マーケター、クリエイティブディレクター、研究開発、調達、販促、さらには各世代の生活者ペルソナまでを含むAIチームが自動で編成され、議論が起動します。コンシェルジュAIは議論の進行役として、必要な追加情報の確認、前提条件の更新、成果物の指定まで一貫して伴走いたします。

プロンプトの巧拙に依存しない運用は、現場の属人性リスクを抑え、導入部署の拡大や組織横断の利用において極めて有効です。テスト導入では、非エンジニア職でも初週から実務に耐える成果物生成まで到達したという評価が相次いでいます。

Deep Researchは、ウェブ上の膨大な情報群を自動クロールし、信頼性や鮮度を踏まえて選別・要約・比較する高密度の調査モードです。重複の排除、視点の多様性、根拠の提示に重きを置いたアルゴリズム設計により、単なる検索結果の羅列に終わらない“意思決定に効くレポート”を生成します。

出力は出典リンクと参照箇所の要旨を併記し、一万字を超えるボリュームにも対応します。さらに、生成された調査結果はそのまま議論用のインプットとして各専門家AIに配布され、追加の仮説検証や反証のやり取りが即座に走ります。これにより、情報収集と企画立案のあいだに存在していたボトルネックが解消され、検討の深さとスピードが同時に両立します。

市場構造の俯瞰から競合比較、カスタマージャーニー仮説の検証、価格帯別の需要弾力性の推定まで、縦横に掘り下げる調査を日次で回せることは、意思決定の密度を劇的に高めます。社内のナレッジや過去の議事録、顧客の声といった私的データと組み合わせた拡張運用にも適しています。

デザイン資料作成は、調査・議論で固めた骨子を数分で視覚化するスライド自動生成のモードです。提案書、戦略メモ、稟議資料など用途に応じた構成テンプレートを選び、論点の優先度に沿ってページ配列、要旨、図表の雛形、コピーの叩き台まで一括で整えます。

「前提」「示唆」「打ち手」「リスク」「次アクション」のようなコンサルテーション型の流れも、「課題→インサイト→コンセプト→施策→KPI」のようなマーケティング型の流れも選択可能で、ページ数は十枚以上を標準とし、レビューに耐える密度で生成します。レビュー結果は即座に反映され、版管理も自動で行われます。

これにより、資料づくりに費やしていた時間を思考と検証に再配分でき、クリエイティブとロジックの両輪を回し続ける運用が現実的になります。

期待されるビジネスインパクト

導入効果の試算では、新しいアイデアの創出から市場投入に至るまでのリードタイムをおおむね一・五倍から二倍に短縮し、企画の打ち手候補数は二倍から三倍に増加する見立てです。さらに、リサーチ、企画、資料化の自動化により担当者の工数は平均で四割削減、外部委託の代替によって年間三割のコスト削減可能性が示されています。

これらの数値が示すのは、単発の効率化ではなく“組織の思考速度”そのものを引き上げる効果です。意思決定のサイクルが速くなるほど仮説検証の回数が増え、精度も上がります。結果として、プロダクトの適応力と学習速度が高まり、競争優位の源泉が積み上がっていきます。

重要なのは、スピードと品質のトレードオフが崩れる点です。情報の厚みを保ったまま素早く意思決定へたどり着けるため、現場の「待ち時間」や「手戻り」が大幅に減少します。

価格と提供スケジュール

提供モデルはエンタープライズ向けを基軸とし、料金は十アカウントで月額九十万円からとなります。組織規模や要件に応じた初期費用の見積もり、専有環境の構築、アクセス制御など、企業利用に求められる諸条件に合わせた提案が前提です。

また、検証を小さく素早く始めたい組織向けに、機能を絞ったエントリーモデル「Nomatica Lite」も用意されています。Liteは共有環境での提供、カスタマイズ非対応、選択可能なエージェントの制限、ディスカッション上限などの制約がある一方で、初期費用と月額の負担が軽く、最小構成で運用を立ち上げる用途に適しています。

本番導入前のワークショップやPoCで導入部門の運用様式を見極め、正式導入時に専有環境へスムーズに移行するステップ構成を取ることで、投資対効果の確度を高めやすくなります。

機能提供のロードマップ

提供スケジュールとして、コンシェルジュAIは九月以降の提供開始が予定されています。Deep Researchとデザイン資料作成は先行して提供されており、二つの機能を組み合わせることで、調査結果からスライド完成までを短時間で結ぶ“情報から表現までの直結パス”がすでに確立しています。

この順序設計は、まず情報の深掘りと可視化の基盤を整え、次に操作のハードルを大きく下げるという現実的なロードマップであり、導入初期の学習コストを抑えながら高い成果を引き出すことに寄与します。

一日のワークフロー例：高速検討サイクル

実務での一日の使い方を具体的にイメージしていただくために、プロジェクト初期の“高速検討サイクル”の例をご紹介いたします。

午前、コンシェルジュAIに目的、制約、KPIを伝えると、最適なエージェントチームが編成され、議論が自動で立ち上がります。生活者AIからはニーズの兆し、マーケターAIからはセグメント別の打ち手、研究開発AIからは実現性の評価が並行して提示されます。

続けてDeep Researchで競合製品の差別化要因、流通トレンド、規制の留意点などを収集。レポートの重要箇所は要旨と出典付きで提示され、議論に直ちに反映されます。

午後、議論で固まった骨子をデザイン資料作成へ渡すと、十枚を超えるスライドが自動生成されます。レビューは複数の専門家AIが同時並行で行い、論点の漏れ、根拠の薄い主張、KPIの妥当性などを自動チェック。指摘はトレース可能な形で履歴化され、改善のたびに資料は洗練されていきます。

夕刻、翌日の意思決定会議に向けて、想定問答を各ペルソナに投げかけ、最終調整を実施。これにより、会議当日の議論は「情報の確認」から「判断の合意形成」へと重心が移り、意思決定の質と速度が同時に向上します。

セキュリティと運用設計

エンタープライズ運用においては、セキュリティとガバナンスが前提となります。NomaticaはISMSに基づく情報管理のもとで運用され、専有環境やIP制限、入力データの学習除外設定など、国内大手企業の要請に対応した設計となっています。

また、組織的な活用定着を前提に、導入後の伴走支援やトレーニングも提供されています。部門ごとに成果指標と運用ルールを定義し、レビュー体制、リスクチェック、ログの保全などをプロセスに組み込むことで、AIの出力を“鵜呑みにしない”健全な運用が機能します。

単一AIとの違い：結論の“厚み”を標準化する

一般的な単一の生成AIツールとの違いは、視点の重ね合わせと合意形成の設計にあります。単一の応答は速い一方で、専門性や反証の不足によって意思決定に足る“厚み”を欠きやすいという課題があります。

Nomaticaは、複数の専門家AIと生活者AIが前提のズレを指摘し合い、仮説の強度を高めながら、矛盾の少ない結論へ収束するプロセスを標準化しています。これにより、スピード・多様性・再現性を兼ね備えたアウトプットを、日次のオペレーションとして供給できます。

導入チェックリスト：効果を最大化する3視点

導入を検討される際の実務的なチェックリストとして、以下の観点をご確認ください。

第一に、どの工程でボトルネックが生じているかを特定し、導入の効果を測る指標を明確にしておくこと。第二に、必要なデータアクセス権限、セキュリティ要件、レビュー体制などの運用条件を事前に整えること。第三に、導入初期は“小さく速く”回し、成功学習を積み上げる設計にすること。

これらを踏まえることで、Nomaticaの価値は最大化します。特に、意思決定のスピードを阻害している「情報の収集」「資料作成」「レビューの合意形成」の三工程に強く効くため、定量効果も見えやすくなります。

90日で定着させる導入ロードマップ

九十日間で定着させるロードマップの一例として、三十日ごとのマイルストーンを提示いたします。

最初の三十日間は、Liteまたは限定権限の専有環境で対象部門のユースケースを三件選定し、Deep Research→議論→資料化の一連を週次で回します。評価指標は、調査所要時間、打ち手案の数、承認までの往復回数など、客観データを重視します。

次の三十日間は、コンシェルジュAIを含む運用に切り替え、プロンプト設計の属人性を排除し、他部門の横展開に備えます。ここで社内規程やレビュー基準、ガバナンス上の必須チェック項目を明文化し、ナレッジベース化します。

最後の三十日間は、複数部門での共同プロジェクトを立ち上げ、データ連携、KPI設計、レポーティングの標準化を実施します。成果は役員会向け資料に自動反映され、意思決定の頻度と質の双方で改善が確認できるはずです。

成果を測るKPI設計：スピードと厚みを両立させる

定量的な効果測定のためには、導入前後で比較可能な指標設計が欠かせません。たとえば、一次調査に要する時間、競合比較の観点数、会議までの資料リードタイム、承認に至る往復回数、キャンセルや差し戻し率、そして最終的な売上貢献や採用率、顧客満足の改善など、多面的なKPIを事前に定義しておくことが重要です。

Nomatica 2.0は、議論ログや生成物のバージョン情報が体系的に残るため、工程ごとのサイクルタイムやレビューの密度を可視化できます。これによって、ボトルネックの特定と改善施策の効果検証が容易になり、単発の成功事例で終わらない継続的な性能改善が実現します。

コンシェルジュAIと成果を出す会話術

コンシェルジュAIとの対話は、目的、制約、評価基準の三点を明確に伝えると精度が上がります。目的は「何を変えたいか」、制約は「予算、期限、法規制、運用体制」、評価基準は「成功をどう判定するか」です。これらを一往復で共有し、以後のやり取りで前提を更新していくのが効率的です。

会話の例として、「三カ月以内に都市部の二十代女性を主対象とした新フレーバーを開発し、初月の購入率五パーセントを目指す。既存流通網の活用と食品表示の規制順守は必須。成功判定はトライアル数とリピートの初動で行う」といった具体性の高い一文を初手に置くと、AI側の編成と手順設計が迅速になります。

リスク管理とガバナンス：監査可能性を高める設計

AI出力の利用に伴うリスク管理では、事実誤認の検知、偏りの是正、著作権や商標の確認、個人情報の取り扱いなど、複数の観点が並行して求められます。Nomaticaは、出典の提示や論拠の明示を促す設計により、監査可能性を高めています。

一方で、最終判断を担うレビュー体制の設計は組織の責務です。法務、品質保証、ブランド管理といった横断機能をレビューの定常フローに組み込み、AIが生成した示唆が実務上の条件を満たしているかを常に点検する仕組みを確立する必要があります。

よくあるご質問：導入前の疑問にお答えします

Q：既存の生成AIツールと併用できますか。A：はい。既存の社内チャットボットや翻訳、議事録作成などのツールと役割分担し、Nomaticaは企画の核となる“思考の場”に特化する設計が有効です。単純作業の自動化と、意思決定にかかわる高付加価値業務の強化を並行で進めることが望ましいと考えます。

Q：専門家AIの拡張は可能ですか。A：可能です。自社の業務特性やナレッジを学習したカスタムエージェントを追加すれば、社内事情や履歴に沿った発言が議論へ自然に織り込まれます。過去の却下理由、成功要因、注意点などを“語れるAI”がチーム内に常駐するイメージです。

総括：生成AIから“業務共創型AI”へ

AIエージェントの時代において、価値の源泉は“編集力”に移行します。すなわち、AIが提示する多様な示唆を取捨選択し、社内外の制約や現実に合わせて機能させる力です。Nomatica 2.0は、情報の量と速度を劇的に増幅しますが、最終判断を下すのは常に人間であり、この編集力の強化が組織の競争力を決定づけます。

生成AIから業務共創型AIへ――。Nomatica 2.0は、企画業務の“作法”そのものを再定義する提案です。情報、発想、表現が一体となって流れる環境を手にした組織は、変化の激しい市場環境においても、迷いなく次の一手を繰り出せるようになるでしょう。

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